Episode.1 相談
「まぁ、また今度、ゆっくり話そうや。」
そう言ってヨウ…
俺にその紙を押し付けた後に、ヨウは忙しくなく走り去って言ってしまった。
・
「なんやねん、あいつ…」
帰宅後、1LDKの小さな部屋のベッド上で1人、コンビニで買った適当な弁当を食べながらLINEIDの書かれた紙を手に、うぅん、と唸る。
親友だったことに変わりはないし、もう社会人ということもバレてしまったのだから登録しても困ることは何一つないのだが、なんとなく気が進まない。
食べ終えた弁当の容器と箸をビニール袋に乱雑に入れる。
「まぁ…ええか。」
ヨウと話したいことがあるのは俺もだし、今“なんとなく”で登録しなかったら後に後悔しそうだったのでLINEIDを検索し、『津村陽二』と書かれた人物を友達登録。
『登録したぞ』
念のため、簡潔にそう文章を送るとすぐに既読がつき、『おおー!ありがとう!』とスタンプ付きで返信が来た。そして
『突然なんだけど明日にでも飲みに行かね?』
と、俺が返信するまもなく、送られてくる。
『いいけど、お前今なにしてんの?』
指を動かし、迷わず送信ボタンを押す。
さっき会った時もスーツではなかったし、ヨウのことだから何か変わったことをしていそうだ。
『俺は芸人してるよ。』
芸人、そういえば、ヨウは高校を卒業するときに「なにか目立ちたいことがしたい」と言っていたような気がする。
『すげぇな』
俺と違って、ちゃんと夢を叶えた親友に思ったことを率直に送る。
ヨウはやると言ったらやる男だった。さすがだ。ほんとにすごい。
『だろ?』
ふふん、なんて誇らしげに笑うヨウの顔が目に浮かぶ。
芸人、とか詳しい仕事内容は俺にはわからないが、今俺がしている仕事よりもハードで、刺激的で、楽しいんだろう。
『でさ、明日、また連絡するけど、絶対空けといてな。』
ぼんやりと芸人について考えていると、そんな文章が送られてきていることに気づく。
なにか重たい話でもあるんだろうか、なんて少々心配になりながらも『わかった』とだけ送り、携帯の電源を切った。
・
「おー!来たか!」
仕事終わり、さんざんLINEでヨウに急かされ、一旦帰宅してスーツに着替える暇もなく、指定された居酒屋へと入ると、嬉しそうなヨウが俺に向かって手を振る。
「着替えたかったんやけども。」
「まぁええやん、ほら、なんか頼みぃ。」
はい、と俺にメニューを手渡すヨウに「奢ってくれんの?」と笑いながらいうと「芸人は金がないからなぁ…」とわざとらしく言われる。
「まぁええわ。生で。」
注文を伺いに来た店員にそう頼み、「あ、金かしてくれとかやったら俺は知らんからな」とヨウに一言いう。
「そんなんちゃうわ。そんなんちゃうけど…まぁ、言い難いことやねん。」
「なんや、怖いわ。」
店員から生ビールを受け取り、一口飲む。
ヨウは、ジョッキの三分の一程度入っていたビールをイッキし、ダンッと大きな音を立てながらジョッキを置いては俺の方をじっと見て頭を下げた。
「頼む!ハル、俺とコンビを組んでくれ!」
ヨウのその頼みに俺は唖然とすることしかできなかった。
クラッシュタワー。 田中南瓜 @Tanaka_o_no
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