クラッシュタワー。

田中南瓜

Episode.0 再会

大きくため息をつく。

例年より冷えるこの季節に、大西の息は白く、ため息の長さがしっかりとよく見える。


「俺はつまんねぇ人生にはせぇへん。」


学生時代の頃、自分がよく言っていた言葉を思い出し、また一つため息をつく。


あの頃の「つまんねぇ人生」の基準なんか覚えてやしないが、多分、サラリーマンとか、そんなことを対象にしていた…ような気がする。


きちっとネクタイをしめた、このスーツ姿の自分を見て、学生時代の自分はなんというだろうか?

ミスをすればへこへこと謝り、どんな理不尽なことにも文句一つ言わずに仕事に励む自分を見てなんというだろうか?


「だせぇなぁ…」


ださい。

昔の自分だけじゃなく、今の自分からしても。


学生時代ならできた悪行も、今、この歳で、この場でしようものならクビは確実だ。

学生時代はどんなに自由だったかが今痛いほどにわかる。


つまんねぇ人生。ださい俺。自由だった学生時代。


社会の歯車として立派(笑)に働く俺は、そりゃあ誰かさんからしたらかっこいいサラリーマンで、誰かさんからしたらかっこわるい大人なんだろう。


決まった時間に起きて、出社、決められた仕事を少し残業しながらも終わらせ、電車に乗って、コンビニで適当な弁当を買って帰宅、就寝。

そして決まった時間に起きて…


こんなことをもう3年間も続けている。

ごめんな、俺、つまんねぇ人生送ってるわ。


心の中でそう、学生時代の俺に謝罪をしながらコンビニ袋を手に、只今帰宅中。

スーツのお尻ポケットに入ったスマホが揺れた気がして、スマホを取り出し、目線をその手元のスマホにうつしながら歩いていると、人とぶつかり、逆の手のビニール袋ががさごそと鳴る。


ああ、やっぱり歩きスマホはいけないな、なんて真面目なことを考えながらも「すみません」と小さい声で謝ると、ぶつかった方の人から「あれ?」と声が聞こえる。


「ハル?」


自分の昔のあだ名を知るその人物に驚きながら顔を上げると、細い目を丸くさせた、幼馴染の姿があった。


「ヨウ…?」

「ハルやんな?!久しぶり!」


この幼馴染との3年ぶりの再会をきっかけに、俺の『つまんねぇ人生』は180度変わることになる。

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