第26話:エピローグ

「楓おはよう」


 由奈が後ろから挨拶してくる。


「おはよう」


 丁度学校まであと数分、由奈は自転車を降り、二人してゆっくり歩いてゆく。

 私は、あのシェリーさんを送り出すライブを体験してから、今まで私自身がどれだけ弱かったか、甘かったかを実感した。

 でも、アユムを好きなのはシェリーさんよりも強いと今でも信じてるし、もちろん今でも大好き。

 この前一緒に桜を見に行こうと誘ったら、ワゴンちゃんも来ちゃって、結局サン・ハウスの皆さんも来て大宴会。

 シバさんたら、岡部さんに酔った勢いで抱き着こうとして、奈津子さんに思いっきり頭を叩かれてたわ。

 意外と奈津子さんもやるんだなって感心しちゃった。

 まだアユムには振られている状態だけど、なぜか生活、充実している。

 シェリーさんにはまだ負けてるけど、もっともっと女磨いて、いつかきっとアユムが私の事を好きって言わせるから、その時は覚悟してね。



♪・♪・♪



『う~ん、難しいなあ、これってどう操作すればいいの?』


 なかなか持ち慣れないの物を持つと大変だわ。


「シェリーさん、もうそろそろリハ始まりますので、5分後には出れるようにお願いします」


「は~い」


 丁度、今収録のリハの最中。でもこんなスキマ時間でも活用しないと、アユムと連絡も話も出来やしない。

 最近買ったこの“スマートフォン”ってのは便利だってみんな言うけれど、初めて持った私はちょっとじゃなく、かなり大変。

 でも、時々『ライン』っていうアプリで、リアルにアユムと話せるのがとても楽しい。

 いつもアユムと繋がってるって気持ちがするの。これを持ってから。

 変ね。今まで持つことを嫌ってたものが、今は私の大切なアイテム。

 よし、今日の話せる時間をちゃんとラインで報告できたわ。

 絶対連絡してきてね。今度はアユムからの番だからね。


「シェリーさん、準備お願いします」


「ハーイ、入りまぁす」


 私はまだ使い慣れてない新品のスマートフォンを、ポシェットの中にしまい込み、ステージの方へ進んでいった。



♪・♪・♪



 シェリー、元気してる?

 今度のデビュー曲、ベストセラー小説の映画化のタイアップ曲でしょ。

 凄いよね。応援してる。

 ぼくの方はもう新学期が始まって2週間、高校2年生だよ。

 ちょうど今は新入生の部活の勧誘期間で、各部が盛んにチラシやポスターで新入生を勧誘している。

 僕は両手に、とある用紙を握って生徒会室に向かって歩いているんだ。

 右手には「囲碁将棋部」の退部届、左手には「軽音楽部」の入部届。

 これからは、新入生と共に音楽、特にロック、ブルーズにどっぷり浸ってみようと思っている。

 どんな境遇が待ち受けているか、分からない。

 それはクロスロードのマディさんが言っていた。

 でも僕には守らなきゃいけない約束があるから、どんな試練も越え得られると思っている。


 必ず、駆け上がる。


 だから待っててね、シェリー。




♪・♪・♪ Fin ♪・♪・♪








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