9-1
蜂は死んだのだと聞かされた。羽化するまえに。
詳しいことまで姉ちゃんは話したがらなかったけど、それでも死んだという事実を伝えてきたのは元々の蛹の持ち主が俺だからか、過去の習慣か。どちらでもいい。相槌だけ打って承知を示し、その話はおしまいにした。
今は春休みで、姉ちゃんは少し長めの予定でこちらに帰ってきている。冬に帰省しなかったのは多分、年末年始は両親がいるからなんだろう。昔から彼女は親を避けていた。まあ、働いてばかりで子供の生活なんて二の次な人達だから俺もあんまり好きじゃない。
でもこんなこと、前までは気付けなかった。姉ちゃんが一人でいようとするのは俺にとってごく当たり前で、それにどういった意味があるのか疑問に思ったことなんてなかった。きっと何かしら逃れたいものがあるんだろう。そういったことについて語ることはなかったから、やっぱりある程度自分を守りながら生きているのか、単に本人もそういう特性のようなものに気付いていないのかどちらかなのだと思う。
――今後、一生、彼女が何も教えてくれなくてもいいと思うようになった。彼女の世界に俺が参加することは彼女にとって不要なことで、もっと言えば余計なことだろうから。だけどほっとけないのは相変わらずだから、だから、彼女が気付かない場所で彼女を支えるようなことができたらいいと思ってる。それが具体的になんなのかまだはっきりしないけど、そんな風に守っていけたらと。
あなたのカゴの中で 外並由歌 @yutackt
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