白雪文成のリハビリ録
留部このつき
新暦40年9月18日
サク。今日はよく行くスーパーで大安売りをしていたよ。僕はそんな大安売りを見るたびに子供の頃に母が聞かせてくれた話を思い出すんだ。どうか聞いて欲しい。
どうしたことかそこは地獄で、次の人生を売る一人の男に出会うんだ。安くしとくよ、ドラマチックだよってのが売り文句でさ。
それでついふらふらと足がそっちに向きそうになると別の男が引き止めるんだ。そいつは魂を食うんだぞ。ドラマチックであればあるほど美味いんだとさ。そいつは人生を売ってその魂を食って自分の腹を満たそうとする正真正銘の悪魔だぞって具合に声をかけてくる。なるほどそういうことなのかってそのまま大安売りを通り過ぎる。
話はそこで終わりじゃなくって、実は声をかけて来た二人の男は、二人揃って魂喰らいなんだ。偏食家で、二人で協力して味気ない何の変哲も無い人生を食って過ごす、正真正銘の悪魔なんだな。
男たちの説く教訓というのが、誰かが必ず得をするように世界はできてて、つまり自分の得になる生き方を迷いなく選びなさいって、まぁそういう具合の話なんだ。面白くも何とも無いが、僕はこの話がとても気に入っててね。何と言ってもこの世の中は立派に地獄だ。それならそれで、地獄で一番得をしてやろうって、僕は思うんだ。
君を失った僕の世界で、できることなんかそれくらいだからね、サク。君が寂しくないように、僕はまた明日話すことを見つけて君に会いに来るよ。なにせ30年も僕は寝てたらしい。リハビリに少しくらい付き合って欲しいんだ。よろしく頼むよ。それじゃあね。
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