新暦40年9月19日

30年前と比べて――僕の知っている世界と比べて――今の世界は随分と変わってしまった。ただ、日本は数少ない変化の少ない土地であるらしい。起きてから僕もまだ一月と経っていなくてね。サク。実を言うと君についての記憶さえ僕は判然としないんだ。30年前の、数少ない僕の記録の整理中に君が恋人だとの書き込みを見つけたんだ。君のお墓を探して来たまではいいものの、具体的なことは全く覚えていないんだ。何を話し、どんな風に感じていたのか――。

37年前、僕らの世界は完全無欠の人造人間を生み出した。名前は"Never Ends"決して終わらぬ者だったね。35年前、その人造人間は人間たちに叛旗を翻した。34年前、進歩した医療技術と軍事技術は、人間を人造人間にできるようにしてしまい、誰が敵で味方なのか分からなくなった。33年前、まだ人間だった僕を人間たちはリーダーにした。その結果、僕は世界を二つに分けるという形で、人造人間たちの叛乱に決着をつけることに成功した。これが30年前だ。ここまでのことはサクもよく知っていることだろう。そして、30年前、君が死んでしまった日、人間だった僕の生命も終わった。乗っていた飛行機の事故で、僕を含む乗客はみんな死んだ。それなのに何故だか僕は生きている。人造人間に生まれ変わって。ソフィアは僕を人造人間にして生まれ変わらせたことについて、「世界があなたを必要としている」だなんてもっともらしいことを言ったが、要のところは彼女が寂しかったからだろう。

それから世界は混乱に陥った。僕をなくした人間側は人造人間を恨み、人造人間は僕をなくした人間たちを支配しようとした。その争いは、まだ決着していない。ただし、僕の故郷であるところの日本、東京近辺だけは例外らしい。人造人間と人間たちが手を取り合って生活している。僕はこの事実を、とても素晴らしいことだと思っている。誰も、本音のところでは傷つけ合いたくないのだろう。僕もそうだ。やがてまた武器を持つ日が来る。それは分かっている。でもそれは、可能な限り遠い日のことであれば良いと思っている。

今日のところはこれくらいにしよう。また明日、君に会いに来るよ。

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