新暦40年9月22日

やぁ、サク。今日は少し残念な喜ばしいニュースを聞かせにきたよ。それはね、君を殺した奴が既に死んでいたというニュースさ。何がどう少し残念かって?君の仇討ちをすることができなかったことが残念なのさ。あろうことか僕だけでなく君の命まで奪った奴なんだ。どんな手段を使ってでも仇を討ちたかったのに、それができなかった。僕の全てを使ってでも君の無念を果たそうと考えていただけに、残念で仕方がないことだ。

そうは言ってももちろんうれしい。僕を縛る鎖のほぼすべてからこれで解き放たれた。満ち足りた、清々しい気分さ。歌でも歌いたいほどにね。そういえば30年前と違って、僕はあまり歌わなくなった。新しく生まれ変わってからはロクに歌ってない。君が死んでしまったことを聞いてから、そんな気分にもなれなくなってね。うん。君は僕の歌が好きだったはずだし、こんどまた練習をしようか。歌わない僕よりも歌う僕の方を、君も好きでいてくれるだろう。

歌で思い出したけれど、当時の仲間はまだ元気なのだろうか。30年も経ってしまったわけだけれど、裏を返せば30年しかまだ経っていない。当時の仲間と歌うことはできなくても、当時の仲間の子どもたちと歌うことはできるかもしれない。思い出話ができるかもしれない。解き放たれたせいかな。明るいニュースがいっぱい届けられそうだね。なんだかわくわくしてきたよ。

解き放たれた。そう、解き放たれたんだ。今僕を縛るものは精々がこの肉体くらいなもので、この肉体でさえもソフィー・システムを使えば自由に動き回ることができる。確かに君の死は僕の前の人生の終わりをも意味する重く、悲しいものだ。でもそんなどん底に僕がいる間でさえ、『希望』というものは生まれてくる。どんな時も絶望に唇を震わせるよりも、希望に胸を躍らせる僕でありたい。君もきっとそう言ってくれるだろう。

うん、今日のところはこれで終わりにしよう。また明日来るよ。ソフィーが何か隠しているようだから、未来視を使ってでも突き止めなくちゃいけないしね。じゃあ、また明日、サク。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る