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 私が、普通の人間と違う、かもしれない、ということに気が付いたのは、私が幾つの時だっただろう。

 これは、正確には覚えていない。

 昔の出来事だし、ふわふわとした、実体のない思い出だし。

 そうでなくても、私は記憶力が悪いのだ。

 別に、思春期特有の感情、情緒、マージナルマン的感傷ではなく。

 こういうの、なんて言うんだったっけ。

 …ああ。中二病。

 つまり、そういうあれこれではなく。

 本当にちょっと、違うんじゃないかって。

 …もしかしたら、私がこの年になっても未だに勘違いしてるだけの、ちょっとやばい人、という可能性もあるのだけど。

 その可能性を一旦排除して、この話をしよう。

 なんだっけ、私の中の感情。

 そう、消極的自殺衝動。

 これの話だ。

 話が本筋に入ったのに、早速で申し訳ないのだけど、アナタはチフスのメアリーをご存知かな。

 知らない?

 あ、そう。

 調べてもらえれば済む話なんだけど、もしかすると、なんらかの理由で調べられない、若しくは、そもそも情報が消失している可能性もあるし、簡単に説明しようか。

 説明とか、あんまり得意じゃないんだけどね。私。

 チフスのメアリー、チフス菌を健康な体のまま保持できる女の人のこと。

 お堅い言い方をすると、世界で初めて臨床報告されたチフス菌の健康保菌者の女性。

 それがチフスのメアリー。

 つまり、チフスのメアリーの、メアリーっていうのは、女の人のことね。

 チフスは、わかるかな…、腸チフス、一言で言うとね、結構ヤバい病気。

 腹痛、頭痛、関節痛、下痢、便秘、高熱…。

 ヤバい病気の菌を、健康な人間、発症しない人間が…。メアリーが、無自覚にあちこち移動したり、行動したせいで、病気が無意識のうちに爆発的に広がっちゃった、という話。

 歩く細菌兵器、うん。見方によってはそうかも。

 これから発展した人権問題とか、移民問題なんかは割愛するとして、私がなんでこの話をしたのか、なんでチフスのメアリーの話をしたのか、もうわかってきたかな。

 メアリーは健康保菌者、無症候性キャリアとして、チフス菌を保持していたんだけど。

 そう。

 私が、なんでこの話をしたのかというと。


 私が勘違いしていなければ。


 私は。

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