第5話
太陽の光で気持ちよく目覚める。
部屋中のカーテンを開け、アダムをくすぐって起こす。
キッチンに立ち、楽しそうに3人分の朝食と2人分の弁当を作る。
ノリノリで職場に出勤する。
明るく授業をする。
明日の準備や事務仕事を片付ける。
スキップをしながら家に帰る。
また楽しそうに夕食を作る。
洗濯機を回す。
ご機嫌で風呂に入る。
笑顔でアダムやユウコと話しながら昨日の洗濯物を畳む。
少しの読書の後に就寝。
こんな風に、リョウタロウは1日の約8割を笑って過ごしている。
リョウタロウがいつも明るいので、アダムやユウコ、職場の同僚まで笑顔になる。
また、リョウタロウは端整な顔つきでスタイルもいい。
以前、弟と原宿へ買い物に行った際は、電車に乗るまでモデルのスカウトマンが付いてきた程だ。
性格もよくて見た目もいい。
リョウタロウの周りはいつも笑顔が溢れている。
しかし、耳が聞こえないという理由だけで、リョウタロウの両親は彼を“いないこと”にした。
リョウタロウの実家は、150年以上前から続く華道の家元だ。
リョウタロウの父親が祖父から引き継ぎ、長男として生まれたリョウタロウに受け継ぐことになっていた。
リョウタロウが生まれて3ヶ月が経った頃、彼の耳が聞こえないことが判明した。
両親、特に父親は、リョウタロウとどう向き合っていくかを考えるよりも先に、この事実をどう周囲から隠そうかに全神経を注いだ。
そして、小学校にあがるまで家から出さず、全寮制の小学校に入れた。
そんな中でも、リョウタロウは父親の付き人やお手伝いさん、庭師のお爺さん等に遊んでもらいながら、優しい子に成長した。
家を離れるときはすごく寂しかったが、自分が我が儘を言ったら皆に迷惑がかかると思い、何も言わなかった。
足りないものを埋め合わせて… 平岡拓人 @HiraokaTakuto
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