第4話
ユウコは仕事を休み、ベッドの上で毛布にくるまっていた。
ユウコは時々、今日のような朝を迎えることがあった。
最近は随分良くなったが、その1日は恐怖で震えが止まらなくなり、仕事どころではなくなる。
以前勤めていた会社ではその事を全く理解してもらえず、依願退職という形でクビになった。
職を失い途方に暮れていたとき、今の職場の室長が声をかけてくれた。
そうして今、ユウコは病院内にある相談室でカウンセラーとして働いている。
室長はユウコのことを理解してくれていて、そういった日は休ませてくれる。
エンジニアとして働いていた以前に比べたら収入は少ないが、リョウタロウや室長のお陰で、ユウコは少しずつ明るくなり、あの夢もあまり見なくなった。
あの人がしたかったことを一通り終えて、あの人がシャワーを浴びに行った。
ユウコの目からは止めどなく涙が溢れていた。
心は拒否してるのに、身体は火照り、少し気持ちよくなっていた。
そんなことを感じている自分に腹が立った。
いっそここで死んでしまおうか。
ユウコが部屋を見渡すと、小さなシンクの脇に果物ナイフがあった。
「ここで死ねば、あの人の人生は台無しになる…」
何も着ていないことも忘れて、ユウコは果物ナイフを握り、自分の首に押し当てた。
「確かここを切れば、5秒で死ねるんだっけ…よし。」
ユウコの心は決まった…はずだった。
いざ死のうと思うと、さっきまでのことや辛かったことではなく、嬉しかったことやリョウタロウの笑顔ばかりが浮かんできた。
「ごめんね、リョウタロウ。ずっと一緒に居たかったけど、私、もう汚れちゃったから、あなたのところには帰れない。今までありがとう。」
目を閉じて、息を整える。
「もう少し楽しませてよ。」
あの人がユウコの手からナイフを奪い、笑みを浮かべる。
全身の力が抜けて崩れかけたユウコを優しく支え、ベッドに横たえる。
「また唇からいくね。」
ユウコが目を閉じた瞬間…
バンッ。
玄関のドアが突然開き、何者かが入ってきて、瞬く間にあの人を固めあげた。
「ちょっとマジで痛いんだけど!」
固めあげられた状態であの人が叫んだが、当然その人には聞こえるわけもない。
殺気に満ちた目で睨みながら、さらに絞めていく。
「もう無理無理!息止まる…」
そこへ遅れて警察官が現れ、呆然となる。
その人は気絶寸前のあの人を警察官に渡し、急いでユウコのもとに駆け寄った。
シーツや自分の着ていた上着、バスタオル等でユウコの身体を包み、その上から思いきり抱きしめた。
ユウコ以上に泣いていた。
耳元でごめん、ごめん、と口が動いている。
「ありがとう、リョウタロウ。」
カクン。
今までずっとユウコの背中を横から擦っていたリョウタロウの首がおれた。
リョウタロウはユウコの背中に手を置いたまま眠り込んでいた。
ユウコがあの夢を見た日は、リョウタロウも仕事を休み、ずっとユウコのそばにいた。
気持ち良さそうな寝顔を見て、微笑むユウコ。
「いつもありがとう。」
起こさないようにそっとリョウタロウを横にしてユウコが寝室を出ると、ちょうどアダムが帰ってきた。
「おかえり。今朝はごめんね。」
「ううん、もう大丈夫?」
「うん。」
心配そうだったアダムに顔に笑顔が戻った。
「リョウタロウが寝ちゃったから、私たちで夕飯作らない?」
「うん!リョウタロウをびっくりさせよう!」
アダムとユウコはキッチンに立った。
2人とも料理の経験があまり無く、味は正直微妙だったが、アダムもユウコも一緒に料理を作った時間がとても楽しかった。
また一歩、本物の家族に近づけた気がした。
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