第3話

目が覚めると、見覚えのない景色が広がっていた。

真っ白なベッドの上で横になっている。

何があったのか思い出せないが、体が言うことを聞かない。

「私、どうしちゃったんだろう…」

「あっ、やっと気づいた。」

頭に雪を積もらせている男性が、タオルを手に現れた。

見たことがあるような無いような顔だ。

「外、すごい寒いよ。まあ、僕らはこれから温まるからいいか。」

そう言って男性はシャツを脱ぎ始めた。

上半身裸になり、私の方へ手を伸ばして来る。

「なっ、何するんですか!」

やっと男性がしようとしていることを悟った。

逃げようともがくが、からだの自由が利かない。

「君が悪いんだよ?」

「えっ?」

男性の言っている意味がわからない。

「僕が、僕がこんなに君のことを思ってるのに、君は全然気づかないんだもん。それに最近、彼氏いるでしょ?ぼく、君のこと何でも知ってるよ。」

…もしかして、ストーカー?

そう言えば、レストランでアルバイトをしてた時に、この人みたいな人に連絡先を聞かれた気がする。

丁寧に断ったつもりだったけど、それからずっと見られてたの?6年近くも?

急に怖くなってきた。

気づかなかった自分が嫌になった。

「これでもう、君は僕のもの。」

その人の指が私の肌に触れる。

どうにもならない。

涙が溢れて…


ガバッ。

飛び起きたユウコ。

目の前に昨日と変わらぬ風景が広がる。

リョウタロウが朝食を作る音が聞こえる。

「…良かった。」

ユウコの顔に笑顔が浮かんだ。

ユウコがリビングに行くと、リョウタロウはテーブルを拭いていた。

『おはよう。』

ユウコの異変に気づくリョウタロウ。

『その顔、どうしたの?』

『何?』

ユウコが洗面台の鏡に顔を写すと、両目の脇に涙が流れた後が残っていて、目の周りは赤く腫れていた。

「あらら…」

ユウコは急いで顔を洗った。

鏡の奥の自分に言い聞かせる。

「もう守りたい人がいるんだ。強くならなくちゃ。」

ユウコがリビングに戻ると、テーブルの上にココアのマグカップが置いてあった。

リョウタロウが自分のココアを飲みながら待っていた。

しばらく無言でココアを飲むユウコとリョウタロウ。

何気なく目が合い、微笑み合う。

「おはよー」

「あっ、おはよう。」

アダムが起きた。

そのまま玄関に朝刊を取りに行った。

こぼれかけていた涙を拭うユウコ。

『アダムのためにも、もっと強くならなきゃね。』

『俺がユウコもアダムも守る。だから、無理しなくて大丈夫。ユウコはユウコのままでいいよ。』

『でも…』

「何か届いてるよ。」

そう言って、アダムがユウコに封筒を渡す。

「ありがとう。何だろう?」

送り主の名前を見た瞬間、ユウコの顔が引きつった。

「えっ、何で?…何で?…何で?」

ユウコは封筒を放り投げ、自分の寝室に飛び込み、ドアを思いきり閉めた。

アダムはこんなユウコを初めて見た。

どうしたらいいかわからず、リョウタロウを見る。

封筒を見たリョウタロウ、舌打ちをしてその封筒をゴミ箱に投げ捨てた。

こんなリョウタロウもアダムは初めて見た。

アダムの視線に気づいたリョウタロウは、ホワイトボードに何かを書いた。

『悪いんだけど、1人で朝ごはん食べてくれる?』

有無を言わせないリョウタロウの雰囲気に、小さく頷くアダム。

少し笑ってアダムの頭を撫でたリョウタロウは、そのままユウコの部屋に入っていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る