第2話

彼は、目が覚めて少し経つまで、自分がどこにいるのかわからなかった。

昨日の出来事を思い出していた。

確かお父さんとお母さんが死んじゃって…

彼の目が潤んだ。

走って逃げちゃって…

知らない人にぶつかって…

シチューを食べるって約束して…

彼のお腹が鳴った。

「あっ、シチュー食べてない!」

彼が思わず叫ぶと、彼が寝ていた部屋のドアが開いて、昨日の女性が顔を出した。

「おはよう!シチュー出来てるよ。」

彼は真っ赤になった。

彼が部屋を出ると、美味しそうなシチューの匂いがした。

「いい匂い!」

「でしょ?リョウタロウの料理はすっごく美味しいんだよ。」

彼のために椅子を引きながら、女性が言った。

「リョウタロウ?」

彼が首を傾げた。

「あっ、そうだ。まだ自己紹介してなかったね。」

女性はキッチンに行き、シチューのカップを持った昨日の男性を連れてきた。

「この人がリョウタロウで、私がユウコ。」

女性、ユウコは手を動かしながら言った。

ユウコを見ていた男性、リョウタロウは笑顔で彼に握手を求めた。

「僕はアダムです…」

リョウタロウと握手をしながら、彼、アダムは言った。

リョウタロウは一瞬視線をアダムから外してユウコを見た。

ユウコはリョウタロウに指で何かを伝えていた。

「もしかして、手話?」

「うん。リョウタロウは生まれつき耳が聞こえないんだ。」

ユウコの手話を見て、リョウタロウが悲しそうに頷いた。

「そうなんだ。」

一瞬暗い雰囲気になったが、リョウタロウが早く食べようといった感じの動きをした。

3人でテーブルについた。

「いただきまーす。」

アダムがシチューを口に運ぶ。

その様子を見守る、ユウコとリョウタロウ。

「…美味しい!」

アダムの笑顔を見て、ユウコとリョウタロウはほっとしたような顔をした。


食事が一段落つくと、リョウタロウがアダムの肩を叩いた。

『今日、お父さんとお母さんの所に行くよね?』

「うん…」

昨日のことを思い出したアダムは、また泣きそうになり、慌てて下を向いた。

リョウタロウが手を降ってアダムの視線を戻した。

『一緒に行こうか?』

「えっ?」

1人で行くのは嫌だなと思っていたアダムは、一瞬笑顔になりかけたが、思い直した。

「大丈夫。仕事とかあるでしょ?」

『そうだけど…』

これ以上迷惑はかけられない。

「じゃあ、私が行こうか?」

リョウタロウの手話を通訳していたユウコが言った。

「私今日、仕事休みなんだ。」

「えっ、本当にいいの?」

「もちろん!もう家族みたいなものだし。」

驚いてはいるが、嬉しそうなアダム。

優しく微笑むユウコ。

満面の笑みでグッと親指を立てるリョウタロウ。

こうして、新しい家族が誕生した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る