【注意!】人拓の使いまわしはお控えください!

ちびまるフォイ

戻れるならあの頃に

全身を墨のプールに浸かると白い紙の上にダイブした。


「お父さん、これ何やってるの?」


「人拓だよ。お魚を取った時に魚拓を取るだろう。

 それの人間バージョンだよ」


「僕お魚じゃないよ」


「これがきっとお前の役に立つんだよ」


父親の葬式の日、幼いころの思い出がよみがえった。


「あの人拓、まだ残っているかな」


実家の整理をしていると子供のころに残した人拓が見つかった。

右端には記録した日付が記録されている。

ほかにもいくつか成長段階に応じての人拓がある。七五三か。


「ま、親っていうのは子供の成長を残したいんだろうな」


久しぶりに人拓を取ってみた。

成人した今では昔の人拓と比較にならない大きさだった。


5歳のころの人拓と見比べようと手に取る。


「うわぁ、だいぶ小さ……わっ!? なんだ!?」


急に光ったかと思うと一気に目線が下がった。

服のだぼだぼ感で自分の体に何かが起きたとわかる。


鏡の前に立つと自分の体が5歳になっていることに気付いた。


「えええ!? 名探偵コナンかよ!? めっちゃ縮んでるよ!!」


さっき手にした5歳の人拓には墨が影も形もない。

人拓にこんな効力があったなんて。


「も、戻れるのかな……?」


さっき記録した元の俺の人拓。その墨部分に触れると体が一気に成長した。

鏡にはいつも通りの自分に戻る。


「おおお! やった! 戻ったぞ!! これはいい!!」


いつの日か父親が言っていた言葉が思い出された。


"これがきっとお前の役に立つんだよ"


こういうことだったのか。

再び子供のころの人拓を手にして遊びに出掛けた。


「ぼく、1人で来たの? えらいね~~」


「うん! おばあちゃん家にいくの!」


嘘です。子供料金で安いから子供になってるだけです。

と、心の中でツッコミ入れながら子供を満喫。


こんなにもちやほやされるものなのかと驚きながら

大人になってから行きづらい遊園地にいったりしてみる。


「ああ、いくつになってもジェットコースターは最高だぜ!」


いい大人がはしゃぐのはみっともなくても、

かわいい子供がはしゃいでいるとなればほほえましい。


子供に飽きると今度は高校生の人拓で年齢を上げる。


「はぁ~~……憧れのJKがこんなにも拝めるなんて……眼福眼福」


高校の校門の前で登下校する高校生を見ながら拝んだ。

いい大人がやれば不審者通報待ったなしでも高校生なら……大丈夫?だと思う。


ありがたき制服のもつ魅力と若さを満喫すると元の自分に戻る。

元の自分の人拓は事前にいっぱい準備している。


「いやぁ楽しかったなぁ! 子供のころの人拓たくさん取っておけばよかった」


それからもちょいちょい人拓で若返っているうち、

人拓のストックがなくなってきてしまった。


一度、人拓を使ってしまうとその墨部分が消えて白紙の紙になるので再利用できない。


「うーーん。人拓も残りわずかか……もったいなくて使えないなぁ……」


かといってタイムマシンと違って無制限に戻れるわけじゃない。

どうにかして人拓を増やす方法があれば……。


「そうだ! 俺以外の人から人拓を取ろう!!」


こういう事には悪知恵の働く俺はハロウィンの仮装セットのうち医者をチョイス。

墨と紙を手に取りエセドクターが病院に向かった。


「すごい! 子供から大人まで様々な年齢がよりどりみどり! 狙い通りだ!」


人拓をセッティングすると子供や高齢者を墨風呂へと並ばせた。


「お医者さん、これから何する気じゃえ?」


「えーー、これは最新のデトックス水素療法というものです。

 まずはこの墨風呂に使って、体全体に墨を付けたら紙に体を付けてください」


「はぁ……まあ先生がそうおっしゃるなら」


こと日本人は肩書きに弱い。

どっかの偉い学者さんや、まして医者の言ってることは疑わない。


みんな順番に人拓を取っていった。


「やった! やったぞ!! こんなに簡単に、しかも大量の人拓をゲットできた!!」


子供に戻って遊びまくることもできるし、

高齢者になって交通機関乗り回すこともできる。最高だ。


手にいれた人拓をさっそく使ってみると、

身長や体重だけでなく見た目も他人になった。


「おお! 他人の人拓だと姿も変わるのか!」


犯罪し放題、という状況ではあるが人拓取れなくなるのでそれはNG。

病院で手に入れた人拓を湯水のように消費して遊びまくった。

なくなったらまた取ればいいだけ。


たくさんストックしたつもりだったがすぐに使い切ってしまった。


「他人に化けられる面白さも追加されたから

 調子乗って遊んじゃったな。また人拓取りにいこっと」


前のお医者さんセットに身を包んで病院へ行くと、

以前に人拓を取った人が嬉しそうに走り寄って来た。


「見つけましたじゃ、お医者さん! あなたのおかげですじゃ!」

「せんせーありがとー!」

「病院いくら探しても見つからなくて探しました!」


「え、ええ? いったいどうしたんですか?」


みんなの表情は一様に晴れやかだった。


「実は内臓の病気があの墨風呂に入ってからすっかり消えたんじゃ!」


「僕はね、余命わずかだった脳の病気が治ったの!」


「私はもう治せないって宣告されたガンが消えていました!」



「「「 ありがとう先生!! 」」」


「え、ええ……!? どういうこと……他人の人拓ってまさか……」


途端に体が苦しくなり、そのまま病院の中で本物の医者に診察された。




「なんですかこれ? 内臓疾患にガン、脳腫瘍までできてますよ!

 どこからか病気の引継ぎでもしたんですか!? 異常ですよ!!」

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