お金は争いの元

桃山次郎

お金廃止のお知らせ

お金をめぐる争いは絶えない。お金が無いと、お金がほしくなり、お金持ちと争う。お金があっても余計に欲しくなり、お金持ち同士で争う。戦争の背景を確認すると、経済的な背景の無い戦争はほとんど存在しないと推定されている。ならば、根本的な原因であるお金を廃止してしまえば、争いはなくなり、世界平和が実現されるのではないか。そうだ世界からお金を廃止してしまおう。


世界中の国々のリーダーたちは、話し合いの結果、ありとあらゆるお金――紙幣、コインはもちろん、金券、電子マネー、ビットコイン、債権、株券――を廃止し、取引や所有を禁止した。世界中の人々は諸手を挙げて喜んだ。これで、戦争が無くなるなら安いものだ。ついに恒久的な世界平和が実現した、と。


お金を廃止してこれで世界が平和になると思うもつかの間、今度は、黄金を目売る争いが頻発した。お金がなくなっても、経済取引が物々交換では不便すぎるので、最も価値のある黄金で取引したいと思ってしまったのだ。ただ、お金以上に黄金は所在が偏っている。世界中の国々リーダーたちは、あわてて、もう一回集まり、黄金の取引を禁止した。今度こそ、世界平和が実現するのでは、と人々は期待した。


残念ながら、それからも、同じような動きが繰り返された。銀取引が流行すれば、銀取引を禁止し、銅取引が流行すれば銅取引を禁止し……を繰り返すうち、ありとあらゆる金属の取引が禁止された。不思議なことにその間も、戦争はなくならなかった。


人々はありとあらゆるものを代替のお金として利用した。金属の次は、鉱物、鉱物の後は、美術品・装飾品・燃料・兵器・お酒・電化製品・貝殻・石ころ・薬品・米・豆・水・本マグロ・肩たたき券・ガチャチケット、ありとあらゆるものが、実質的な通貨となり、自由な取引が禁止された。その間も戦争が絶えなかった。人々は、いい加減世界平和はあきらめていたが、世界のリーダーたちは意地になり、お金の代替になりそうなものの、取引を禁止し続けた。この頃には、通貨取引を肯定するような発言は、罰せられることになっていたので、誰も表立って一連の動きに反対することは出来なかったのだ。


自由な取引が出来なくなったことで、経済活動が停滞し、食料生産すらままならなくなった。薬品も手に入らないので、病気も治せない。生活に必要なありとあらゆるものの入手すら苦労するようになったので、戦争は加速し、ついに核兵器・毒ガス兵器が飛び交う最終戦争が発生し、人類はまもなく絶滅することになった。


人類最後の富は、酸素となった。水や食料は、なくてもしばらくは生きられるが、酸素を失えば、数分で死ぬからだ。


最後の一人の一言はこんな言葉だった、「息が出来るなんて幸せだなあ。」

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お金は争いの元 桃山次郎 @momojiro5200

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