04
「……………………………………」
目覚めは最悪の一言で集約されました。
まずもって誕生日の朝に見る夢ではありません。何なんですか全く。
重い身体を無理やり起こすと、まだ宿の外は夜の闇に沈んでいます。
翌日が誕生日であるという高揚感からか、私はどうやら妙な夢を見てしまったようです。直前までのどんちゃん騒ぎがまだ私の頭の中では響いているかのように感じられました。
時計の針は十二時を過ぎたあたり。
まだ誕生日を迎えたばかりです。
なのに妙な寂しさがありました。
「…………」
きっと夢が騒がしすぎたからでしょう。いいようで、わるいようで、けれどやっぱりいい夢を見てしまいました。また眠れば、あの続きに戻れたりするのでしょうか?
「…………」
ところで。
それはそれとして。
「…………」
私は、ベッドから身を起こしました。
こんなことをしている場合ではないと思ったのです。
「……いきなりどうしたのですか? イレイナ様。わたくしのメンテナンスだなんて」
「べつに何でもありませんよ」
私によく似た姿の彼女が、怪訝な顔を浮かべながら、私に髪の毛を弄られていました。
私のほうきを人の姿にすると、どうやら私と姿が似るようです。後ろ姿は髪の色こそ違えど、まさしく私でした。
「最近枝毛がひどくなりつつあるんじゃないかと思いましてね、だからちょっと手入れをしようかと思いまして」
「櫛で整えても枝毛は無くなりませんが」
「まあいいじゃないですか」
「それに、わざわざ私を人の姿にしてから髪を整えるのではなく、ほうきの姿のまま魔法で直してくれたほうが早く済みますが」
「まあいいじゃないですか」
「…………」
「…………」
私は彼女の髪を整えていきました。綺麗でさらさらとした髪は、指で掬うとさらさらと零れる砂のように流れていきました。
綺麗で、柔らかくて、いつまでも触っていたい髪の毛でした。
「イレイナ様」
私のほうきさんが、ふいに振り向きました。
「そういえば今日はお誕生日でしたね?」
「……そうですねえ」
「おめでとうございます」
「……どうもです」
私の言葉にほうきさんはくすりと笑いました。
「お誕生日を一人で迎えるのが寂しくなってしまわれたんですねイレイナ様。案外可愛いところもあ――痛っ。痛いですイレイナ様。もうちょっと優しく櫛で解いてくださ――」
何はともあれ。
こうして私は、平穏な誕生日を迎えるに至ったのでした。
来年も、同じような夢を見られることを、心のどこかで願いながら。
とある旅人の誕生日 白石定規 @jojojojougi
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