すべての赤ちゃんは柔らかく笑って

エミリ・ブロンテは、間もなく息絶えた。

僕も、死と向き合う時が来た。


「いいかい、ジョン」

「わん」

犬のような声で喋るジョンは、これ以上の知性は望めなかった。

「あぁ、駄目だ具合悪い!」

「わんわん!!」

「まぁ、頑張るよ」


「ゆいごん」


「ぼくたちの体はきっと、腐れ落ちて消えていきます」


「ぼくたちのお墓はきっと、褪せて誰からも忘れ去られていきます」


「だからぼくたちの体は、子供を残して、自分の魂を半分にして、伝えることができます」


「君は、ぼくたちの遺伝子をちゃんと引き継げたか分からないほど、配列はぐちゃぐちゃです」


「それでも」


「あなたたちが怒ったとき、泣いたとき、その感情は本物の、ぼくたちそのものです」


「あなたたちが、子どもを育み、健やかに生きようとも、それはぼくたちそのものです」


「あなたたちの罪は、本物の、ぼくたちのものです」


「ぼくたちは、謝らないかわりに、あなたたちを生かすのです」


「あなたたちが赦さない限り、あなたたちは生きていけるのです」


「あなたたちは、ぼくたちです。だからあなたたちを愛しています」


「ぼくたちは死にません。ぼくたちは死にません」


「あなたたちも死にません」


「たといあなたに子供ができなくとも、

それはぼくたちの罪です。だから、あなたは生きていかねばなりません」


「あなたがどこかで、息絶えてしまったら、それはぼくたちの祝福です。あなたは、死んだのではなく、ぼくたちと共に生きることを選んでくれただけです」


「心から、あなたたちを愛しています」


これで3nへの弔いも、僕は終ったと思う。


そして僕は、温かい光に包まれながら、少しずつ重くなっていく瞼を、すっと閉ざした。


耳元で、ジョンが囁いた。


「だいじょうぶ!だいじょうぶ!」























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ぼくらのdogmaなんだぜ 鯖みそ @koala

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