さよなら、放射能

枯死していく植物と、無関心な時間たち。

濁流に呑まれて、消えゆく魂。

誰も弔わず、誰にも悲しまれることなく。

二人の麗しい恋人たちは、別れを惜しみながらも、老いていく。

『あなたを愛しているわ!』

萎れた指と指を手繰りよせ、可愛らしくも重ね合わせては。

昔日の情愛を、栗色の瞳に宿した女。

男は、後ろ手に煌めく刃を潜ませつつ、皺寄らぬ微笑をたたえて。

『僕も愛しているさ!』


「ブロンテ、何を見てるの」

「この映画が、ひどく可笑しいんだよ。ははっ」

真新しいテラスで、僕らは映画を楽しむ。

まっさらな白い柵に、僕ら死を恐れずに寄りかかりながら。


「そろそろ、終盤だね。この映画」

「二人は幸せに接吻を交える。その後、画面は暗転し、男は女を刺し殺す」


「ほら、ミルクの時間だよ。ジョン」

「その猫、ジョンっていうの」

「君の孫だよ。ジョン・ダンっていうんだ。この子は」


哺乳瓶に入った、柔らかなミルクを傾けながら、ジョンは満足そうに微笑んだ。


「僕ら、あとどれくらいだと思う」

「そろそろ息絶える頃だよ」

「ほんとうに」

「うん」

「何を見つけられただろうね」

「さぁね」

「何を救えただろうね」

「きっとなにも」


「じゃあ、僕ら」

「待って」

『エミリ・ブロンテ』は、ジョンに覆い被さるようになって、ひくついた肛門を開きながら。


「放尿したい」

じょじょじょじょっと、弧を描いて、ブロンテはジョンを汚した。


「はははっ」

「はははっ」


さぞかし、ブロンテはすっきりしたことだろう。

「ジョンはずいぶんに汚くなったね」

ジョンは、泣いた。可愛いげのある、無邪気な稚児の温かい叫びだった。

「はははっ」

だから、僕も泣いた。

「ふふふっ」

ブロンテの涙は溢れるばかりに。

そうして、やっとジョンを後ろ手に抱き締めた。

彼の涙が、ジョンの顔に降り注いだ。


「ごめん、ごめんね」

「んうんうんう」

「ごめんね」

そうして、いつまでも。いつまでも。


おやすみ、ブロンテ。

そして、映画も終わった。

ちょうど、男が女を血で汚したシーンだった。




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