endure,endure,myたましい
「あぁ、あぁ」
力なく喉が震えて、怯えきった鈍重な声がこぼれた。
「どうしてなんだろうね」
「あぁ、うぁぁ」
『エミリ・ブロンテ』は瞬きすらせずに、戦慄に瞳孔を開き切って、そこからとめどない涙を、ウィスキーが溢れ落ちるように、だらしなく垂れ流していた。
「落ち着いて」
背後から暖かい彼の体を、しっかりと抱き締める。本当に温かいよ。
Endure,endure,endure.
「落ち着いてよ」
「僕は彼女の父親だったんだ!!!!」
「お願い」
「僕は彼女の……」
ぼくら、死の灰に埋もれるように、喘ぎながら呼吸し、地に這いつくばって、抱き合ったまま、永遠のような苦痛に足掻いた。
Endure,endure,endure.
放射能の影響は、確かに実存していた。
つまりは倍数体への影響が顕著だった。
夥しい数の染色体に、欠損や損失、重複、合一、不一致がみられた。それは、彼らの形質を悪魔へと変貌させた。
『エミリ・ブロンテ』の愛した彼女との子供は、全身に無数の瞳の亀裂を萌芽させたシマウマだった。
白身の部分から、蝋が溶け出すように、両足はまるで海綿のように。
「お父さん!ありがとう!お父さん!」
Endure,endure,endure.
「お父さん!ありがとう!お父さん!」
僕はより強く彼を抱き締めた。
「もういいだろ」
「どうして」
「もうぼくら十分に苦しんだよ」
「まだだよ」
「もう死のうよ」
「駄目だよ」
「僕らは男同士だから、どのみち子供は産めない。どのみち生物は滅びるよ。跡形もなく」
「それでも」
「ちゃんと終わりを見つめよう」
奇妙に全身を震わせ、同じ調子で何度も、同じ言葉を繰り返す。
「お父さん!ありがとう!お父さん!ありがとう」
「もう休みなよ」
「お父さん!ありがとう!お父さん!ありがとう!」
「うん」
「お父さん!ありがとう!お父さん!ありがとう!」
「そうだね」
そうして、まもなく、そのシマウマは息絶えた。
それでも、彼が産み落とした、小汚ない猫を引き取ることにした。
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