転落

動物園の、閉ざされた門の前に立った。

酷く錆び付いた南京錠を開けようとして、指に焦げ茶色の金属の酸化した赤黒い液が指を伝った。門の隙間からなだれこむ荒涼とした冷風が肌へ入り込み、僕たちは怖じ気づいた。辺りは硫黄の腐乱した臭いが立ち込める。

「大丈夫、大丈夫だから」

僕は、体の芯を震わせる『エミリ・ブロンテ』を鄭重に擦ってやった。君の恐怖を知っていた。けれど、今こそ没落のときだ。

「もう、あとには戻れないの」

「うん、そうだよ」

僕は、動物園へ入った。


子供はまだ見ぬ世界へ思いを寄せ、無限の可能性を疑わず、自らと他人を愛しながら、ただ無邪気に、ひどく快活に、それも善の本質が経験に依拠しているように振る舞うのだ。


精子君Aは、なんにでもなれると、信じていました。しかし彼が出会うと信じてやまなかった救済は、訪れることはありませんでした。

醜い、醜い、醜いんですよ、と卵子ちゃんは嘲弄しました。

あいつらは、ただの精子だったのに…。

それに気づかずに、どうしてあんなに、死の渓谷の淵へ入り込み、生の確信を疑わずに進めるのだろう……。

そして、灼熱の壁に溶け込み、消えていくのに。


それでも今なら分かるよ。

そうでもしないと、みんな絶望の毒沼へ、緩慢に溺れていくからなんだよ。

「僕」に陶酔していないと、生きていけなかったからだ!

この地獄を生きることを、よし、と肯定できなかったからだ!






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