第7話 ちょっとした大変化。

「ねぇ。私蚊帳の外?それってひどくない?」さすがに焦れたのか錦木がそれを無作法に破りいる。

「い!?」

「そういやいたね。見てた?」猩丸はもう赤い顔をさらに赤くしている。

「そういやじゃないでしょ。」錦木は怒っているはずなのになぜか笑顔で答えてしまう。

「なんでお前がいんだよここに! いや、あれだ、それ以前にこいつはやんねーぞ。もうあたしんだ。」緋羽はかみつくぞと表情に敵意をむき出して猩丸の頭を抱き寄せる。

「安心して。今はほしくないから。今はあなた達二人に興味があるの私。だから取るわけにはいかない。でしょ?」錦木はなにも見逃すまいと丸く目を見開いて二人を見ている。

「それに、彼とは友達から始めることになったから。あなたもどう? 私と友達になってくれない?」シェイクハンドと手を出して誘う。

「やだ。」ぷぅんと頬を膨らませぷいっと横を向く。

「なんでよ。」錦木は真正面を追いかけていく。

「なんかやだから。」緋羽はくりんと反対へ顔を向ける。

「お前なぁ。そういう子どもなトコどうにかなんねぇのかよ。」

「なんない!」ぶぅとフグの顔になって言い切った。

 その様をみて錦木は楽しみから打算なくくすっと一つ笑った。

「あ。」

「なに? 今の見てた?」

「うん。」それを見て錦木は口の前で内緒と指を一本建ててすかさず二人の秘密を手に入れる。

「あ? なんだよ。猩、何見たんだよお前。教えろよ!」

「じゃあ鷹熊さん、あなたが友達になってくれたら教えてあげる。」手にした状況を即座に使って優位に立つ。

「そりゃずりぃぞ!」


 怒る緋羽をみてアハハと笑う錦木。そんな三人に冷や水のように何かがかけられる。

「うぇ! 何だこりゃ!」上を見上げた猩丸たち三人は謎の飛行物体を目撃する。




「なんだあれは? 人なのか?」

「いや、人は飛べないだろ。あたしだって知ってる。」

「でもあれ人じゃない。」




「これで、中和され、揮発が促進されるはずだ。」

「やば、フロハさんみつかっちゃっいましたよ!」

「あたりまえだし仕方あるまい。事は急を要したのだから。このまま去れば何事もなくなる。彼らが誰に何と言ってもたわごととなるだけだ。さ。帰るぞ。」とフロハが振り向いたとき、相手のフディオの顔面は錦木が振り投げたカバンに潰されていた。

「な!?」

「やっぱり辞書入りはキクわね。しかも二つ。重みと力感がダンチで違うわ。」

「お前、案外頭ないのな。脊髄反射みたいに撃ち落としやがったこいつ。」うし!っとガッツポーズをとっている錦木を緋羽が引いた眼で見ている。

「あー。うん。俺も同じこと思ったわ。勝手に自主早退したり。俺つけまわしたり。結構自分勝手というかなんというか。その理想と現実みたいな感じだ。多分変わんねーわ。俺たちと。なーんも。」

「だって、わかんないものなんて近くで見ないとわかんないじゃない。あなた、ウィルスとか細菌とか肉眼で見てわかるの? わかんないでしょ。だから近くに持ってくるの。こうやって覗き込むために。さぁ、何? 誰?」錦木は重力に抗えず落ちてきた何かの誰かの顔面をぐいと引き寄せまじまじと見つめる。

「おーい。大丈夫かー。」錦木の肩越しに緋羽が声をかける。

「もう、ついていけねー。」一歩引いたところに立っていた猩丸の少し前にもう一人が降りてきた。

「今日は君たちに迷惑をかけて申し訳なかったね。実は今日のもろもろの不可思議事は、そこでのびているフディオがぶちまけた薬が原因でいろいろとおかしなことになってしまっていたんだ。今しがた振りかけたもので明日には無効化されているはずだから安心してくれ。本当に申し訳なかった。すまない。……ほら、フディオお前も頭を下げろ。」説明するしかないと判断したのか降りてきたフロハが猩丸たちに頭を下げる。

「私悪くないですよ。なんで薬自体が私のしたことになってるんですか。あんな変な薬を作ってたフロハさんが悪いんじゃないですか。」

「お前が勝手にいじらなければこんなことにはなっていないということを忘れたか?」

「う。それはすいませんでした。」

「私に謝るんじゃない。彼らにだ。ほら。」

「う。ごめんなさい。」ぺこりと頭を下げる。

「さ、では騒ぎになる前に戻ろうか。」フロハなるものはそそくさと帰ろうとする。


「待ちなさいフロハ。もとはと言えばあなたの薬が招いた事でしょう。」

 そこにさらなる第三者が介入し収まりつつある事態をかき混ぜた。


「うわ。もう一人増えたよ。かんっべんしてくれ。おい、そこの水飲み人形みたいにぺこぺこしてるやつ。お前だお前。お前でいいや。あれ誰だ。で、クスリってなんだ。」

「説明しないと。もう一発痛いのをぶっ食らわせるわよ?」錦木が通学バッグを振り振り脅してかかる。

「こいつ、たぶん本気だぞ。あたしにはわかる。」

「えっと。その、あのひとは私の上司のフロハさんとその上司のアルレさんで、偉い人たちで。そのその、そんおクスリってってのはあの、あなたにときめいた男が女になるって状況とですね。あとあと緋羽さんが男になっちゃった状況を起こしたののことで。それがですねあの私が勝手にフロハさんの薬にいろんなものを混ぜてもとは一つの薬だったんですけどまだらってそういう二つの効果になった薬でえっと。」

「もういい。慌てててよくわかんねぇわ。その説明。」三人は水飲みフディオを横にやると残りの二人の会話に耳をそばだてる。



「アルレさん。何故あなたが此処に。」

「あなたたちが問題を起こしていると聞き及んだからですフロハ。あなたが完成させようとした薬も極めて問題です。あなたがあのような薬を作ろうとしなければフディオが感情任せに妨害などしなかったでしょう。」

「薬? 私が作ろうとした環境好化薬のことでしょうか? あれのどこに問題が?」

「はぐらかそうとするんじゃありません。ノマル・レィズナが勇気ある告発をしてくれました。証拠のあなたのメモもほら此処に。あなたが作ろうとした薬が環境を好転させるものではないことは明々白々。あんなものを散布してごらんなさい。世界が五回は楽に滅んでしまいます。」

「滅びません! 世界が美しいもので満たされるのであれば滅びなどしません。なぜ滅びましょうか? そうなるわけがない。」

「だまらっしゃい。世界を稚児小姓の若道界にしてしまうことは断じて認めません。世界は斑に万色の華を持つからこそ美しいのです。世界を眺めて感性を磨きなさい。」

「美しくもかわいくもないものであふれ、皆が成長し賢しく知恵をつけていくからこそこの世界は醜く腐り落ちているのです。このままでは崩壊してしまう。しなくとも緩慢な消滅へと向かうでしょう。なればこそ変革させねばなりません。なればこその若道化なのです!」

「消滅するのであればそれも世界の無意識な選択の結果なのです。我々が変化を強制することがあってはならないと教えているのにあなたという人は。」

「うわー。チゴとかコショウとかあのひと。そういう。うあー。いるんだホントに。あー。」

 言ってることのいくらかを理解した錦木が口に手を当て驚嘆に眼を見開いていた。

「おめー。あいつらの話わかんのか? やっぱ頭いいんだな。あたしにはさっぱりだ。塩コショーとか料理の話かなんかか? でも、やっぱちがうよな?」なにがなにやらといった顔で緋羽は言う。

「わかるって言ってもほんの一部だけどね。あと料理の話でも塩コショーでもないわよ。」


「おい。いきなり不審者めいた登場した上に頭痛くなるような話ばっかしてんじゃねーよ。あんたら偉いのか? 偉いんだろ? 偉いに違いない。んなら俺ら祝福しろ。祝福。ちゃんと祝福しろ。」猩丸は彼らにそう迫った。

「「「それ無理。そういうもんじゃないから。そこまで偉くないから。」」」

 三人そろって同じノーを突きつける。

「じゃぁ、もう帰れよ!」

「ええ。はい。帰ります。多分これで万事オッケーで全部解決されたと思いますから。ええ、すいませんうちの馬鹿どもがご迷惑をおかけしまして。大変失礼いたしました。申し訳ございません。」アルレなるこの中で一番位が高いらしい女性が母親のようにフロハとフディオの頭を押し降ろして再度さらに前にもまして平身低頭に謝らせると去っていった。「あんたたち後でわかってるでしょうね。」とドスを効かせた本性の声でフロハとフディオの肝を刺し貫きながら。




 そんな昨日を洗う朝がまた来た。今日の猩丸の通学路はちゃんと緋羽が角で現れたしもとに戻ったような通学路だった。一つの新展開を除いては

「なんだったんだろうなぁ。昨日の。」

「面白かったからいいんじゃない?」

「面白くねぇぞ。あたしは途中全く覚えてねーんだからな。つーか。なんでお前がいるんだよ。」

「ちょっと登校ルート変えただけよ。友達のために!」そういって錦木は猩丸の腕にぎゅっと抱き着く。

「あ! てめぇ!!」

「ちょ、錦木さん!」

「ダメ、苗字読みダメ。鷹熊さんみたいに苗字じゃなくて名前で、これからは綾香って呼んで。うううん。アヤってよんで!」緋羽の反応を見ながらさらに煽るようなことをいう。


「おはよー。やーやー朝から実に暑苦しくて楽しそうだね深山。もうあれだなんというか死んじゃえ。爆発して死んじゃえよ。君。」親しげに声をかける三人目の女子高生がお手を振り振り割ってくる。

「誰? 君。あぁ緋羽の知り合いか?」

「いや、知らねぇ。錦木のだろ。無駄に顔でかいから。」

「そこは広いっていうの。けど、私も知らないわよ。」

「やだなー。猩丸。僕だよ。僕。昨日もこうしてここで会ったクラスメイトを忘れるとかひどいなぁ。」

「昨日? 此処で?? え?」

「こうしたら思い出すかな?えい! ぎゅー!!」そういって猩丸に抱き着いた。彼は昨日のことを思い出した。確かに彼女は昨日もこうしてきた。しかし、

「クラスメイト? あ、そういや。」彼の頭に嫌な考えが浮かぶ

「そういえば男が女になるとかっていってたけどそれってこれ……?」

「え? 何だよ? これお前らわかってんの?」当然緋羽はわからない。

「ん?」抱き着いたままの彼女は丸眼鏡の奥の丸瞳でこちらを見あげながら何か?と言いたげにこくんと小首をかしげる。

「あんの変態ども! 何が万事オッケーだ! 全部解決してねーじゃねーかぁ!」猩丸のありったけの叫びは天に放たれるも届くことなく空しく響いて消えた。

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愛に薬をひとさじ添えて 作久 @sakuhisa

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