Twitterの文字数制限に合わせて140文字で書く「ツイノベ」という新しい小説の形。なかでも、個人的に「なんてセンスが良いんだろう」と思った作品が『雨の猫』です。
たとえば、2017.9.20の「13 ans, été」を読んでみてください。
中学バスケ、郡大会での事実上の決勝戦、優勝候補同士の対決。逆転シーンとその後の歓喜を140文字×2編で表現しているんですが、そんな少ない文字数で書いているとは思えないほど、情景やその場の興奮がありありと伝わってきます。
その他にも、写真やショートフィルムを見ている気分になる話があったり、和歌の本歌取りのように名作文学を匂わせる言葉を織り込むことで、重層的な構造にしてある話があったり……。140文字だから出せる味わい、上手いツイノベのお手本だと思います。
『雨の猫』というタイトルですが、雨や猫がテーマになっているわけではありません。
ただなぜか、雨の日に夢見ている猫のような、窓際で雨を見ている猫のような。そんな作者さんが書いている印象があり、特に雨の日に読みたくなります。
言葉で簡単には形容しがたい、繊細な魅力を湛えた作品です。
具体的に、言葉が何かのストーリーを形作ろうとしているのではなく…作者の鋭い感性によって選び抜かれた言葉の集合体が、作品全体の空気を醸し出す…というのでしょうか。
不思議な静謐さを感じさせる空気。常に漂うのは、仄白く視界を覆う靄。
そこに、時に闇が訪れ、雨が降り、時に透明な陽射しが差し込み…靄の中に不意に浮かぶ鮮やかな情景が、深く印象に残り、焼き付きます。
作者にしか創り出せない、研ぎ澄まされた感性が満ちる世界。読み進めるうちに、五感がたまらなく刺激されることを感じます。
ぜひ多くの方に触れていただきたい作品です。
140字という枠組みの中に、エッセイやファンタジーを織り交ぜた作品です。
完結ではなく続いておりますが、ひとりでも多くのかたに早くご覧いただきたいなとの思いからレビューさせていただきます。
愛夏さまは、元々、女性の生きざまを乾いた視線で描かれる書き手でいらっしゃいます。
珠玉の物語を何本も公開されており、すべて拝読した愛読者からすれば、この作品における試みは大成功ではないでしょうか。
エッセイは心の内を短くまとめられ、読み手をドキリとさせます。続き物のファンタジーは独特の世界観を、むしろ温かな文章で演出されています。
伊藤愛夏という書き手の新たな挑戦を、ぜひご覧になってください。