第16話 意見具申

 ベンソとバデリオは、アルベルティーニに射るような視線を投げつけた。

 「さあ、早く申してみよ!」

 「私としては、宰相殿が仰るように内政の立て直しから図るべきかと存じます。」

 「そうであろう!」

 ベンソはアルベルティーニの発言に勢いを得たと見える。バデリオは同じ陸軍のアルベルティーニに反対され、苦虫をかみつぶしたような顔をしたが、すぐに冷静になりアルベルティーニの方を向いた。

 「では、どのようにして内政を抜本的に改革するというのか?」

 「そ、それは、、、」

 ベンソもアルベルティーニもたちまち回答に窮してしまった。そう簡単に思いつくことなら、こう何日も話し合うことはないのである。

 「う、ううむ。そうですね。宗次郎殿、なにか良き考えはありませんか?」

 「え!?参謀長殿、私ですか?」

 「ああ。忌憚なき意見をどうぞ。」

 ディ=ナターレは微笑みを浮かべながら、宗次郎の方を見つめる。いかなる状況も正確に判断する鋭き目だ。ごまかしは通じまい。五郎八と愛衣も心配そうに宗次郎を見つめる。


 昨日、話し合ったものの、これといった案は出なかったんだよな。漠然としたアイデアはあっても、具体的に何をするかというのには繋がらなかったし。しかし、とりあえずなんか言っとかないとまずいしな。

 宗次郎は机の前に進み出た。


 「率直に申し上げます。我が国は、国家全体を作り変えることが必要かと存じます。内政においても、軍事においても既存の制度を作り変え、近代化すべきなのであります。伝統的な領土を失い、小さき国になった今こそ、中央集権的な国家を作り上げる好機にございます。」

 とりあえず、いい感じなのでは?

 自身に満ち溢れた語り口に一同は息を飲んだ。

 宗次郎はホッと一息ついた。


 「具体的には、どうする?」

 一人ディ=ナターレが冷めた視線を飛ばした。

 「え、ええ、それはですね、、、」

 ま、まずい。何にも考えてなかったのがバレてしまう。

 宗次郎は冷や汗にまみれた。

 「先輩、私に任せてください。」

 「五郎八!?」

 その時、五郎八は宗次郎の横に並び説明を始めた。

 「近代的中央集権国家の根本は土地と国民は全て国家の所有物と為すことにあります。我が国では、徴税も軍役も、地方の領主を介して行っておりますが、これを中央政府の元に統合する必要があります。つきましては戸籍を作成し全国民を掌握し、これを用いて徴税および徴兵を行うべきと存じます。」

 

 一同はそのあまりの急進的な内容に唖然とした。当然、ここに出席している者たちは地方領主たる貴族だからだ。五郎八の発言は貴族は消滅すべきだ。と言ったに等しかった。


 「己!我々は国の為に命をかけて戦ってきたというのに、なんだその言い様は!侮辱するつもりか!」

 「バデリオ元帥!落ち着きたまえ!しかし、田村殿、それは余りに過激すぎます。全国の貴族が離反しかねません。」

 ディ=ナターレがバデリオを静止しながら五郎八をなだめるが、五郎八は一切ひるむ様子はない。

 「国家の存亡の危機だから国家が生き残れる策を言っているのです!国家の為に貴族が消えることがあっても、貴族の為に国家が消えるなんていうバカなことがあってもいいんですか?」

 一同は静まりかえった。なんせ王国一の忠臣の集まりである。

 しかし、ベンソが口を開いた。

 「田村五郎八。君の言うことは最もだ。まさに王国のために為すべきことだ。しかし、君は重要なことを忘れている。我々は常に間違う生き物なのだ。合理的に考えればありえないこともやってしまうのだ。」

 「、、あなたたちもなのですか。」

 五郎八は呟くと、反論もせずに引き下がった。

 閣議は再び行き詰ったかのように見えた。

 「ちょっと待ってください。」

 一同は声の主、九戸愛衣の方へ注目した。

 「みなさんが反発なさらない方法があるかもしれません。」

 「申してみよ。」

 「憲法を制定し、国会を招集します。国会には衆議院と貴族院の二つを作り、貴族の存在を憲法に明記し、貴族院議員に任ずることでその参政権を保証します。また、庶民も政治に参加できるようにすることで、一人一人に至るまでサヴォッリアの国民だと言う意識を与えることができます。また、召し上げた土地に相当するお給料を支払えばいいと思います。」

 「確かに、一石二鳥と言える。」

 ベンソは感嘆した。

 「カファールでも革命の時に国会が作られたが中々議論がまとまらなかったそうだ。しかし、貴族院の権限を卓越させておけば、いざという時には我々の意見を通すこともできよう。」

 「我々陸軍からしても、貴族と軍部を切り離せるのは良きことでございます。」

 ディ=ナターレも愛衣の案を褒め称えた。


 「しかし、逆に貴族が軍事力を失えば、国家の軍事力を損じるのではないか?」

 バデリオが食らいついた。バデリオはサヴォッリアで一番の軍事力をもつ貴族なので当然必死だ。宗次郎は二人に負けじと進み出た。

 「徴兵制を敷けば安定した兵力を集めることができますし、全国で一律した訓練を行えるので兵の練度も高く誰が指揮官でも一定した戦いが可能になります。訓練を受けた兵を予備役として登録しておけば、戦時になると以前よりも多くの兵を動員することさえ可能になります。また、全軍を総指揮する参謀本部を整備することで、今までになく統一された指揮が可能になります。」

 「ううむ。」

 バデリオも唸った。守旧派のバデリオといえど、有能な軍人であり、指揮系統を統一する必要性は感じていたのだった。

 「確かに、私も参謀本部の創設は必要だと考えていましたが、なるほど近代的国家の枠組みがあって初めて成立するものでありますな。」

 ディ=ナターレは早速次の計画を思案し始めた。

 「憲法の制定、国会の招集、版籍奉還、参謀本部の創設。これらをもって上奏する改革案の骨子となさんと欲す。よろしいか?」

 アルベルティーニが訴えた。

 「異議なし。」

 満場一致で決定なされた。

 この日、この閣議によってサヴォッリア王国は近代化へと大きく舵を切る。

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異世界ゴキブリ アルベルティーニ 民工 @TurnerPasha

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