シャドーシューティング

「じゃあ、みんな、今までに習ったことを考えながら、シャドーシューティング…こんな風に、何も持たずに、弓を引く動作をしてくれるかな。」

 野崎先輩が手本を見せてくれる。


 スタンス。足を肩幅に開く。

 セット。重心の位置に気をつけて、お腹に力を入れ、姿勢を整える。

 セットアップ。弓を持ち上げるように、両腕を上げる。

 ドローイング。持ち上げた両腕を下げながら、押し手は、弓を押し出すように、引き手は弦を引く動作をし、アンカーまで持ってくる。


「とりあえず、ここまでかな。」

 よし、やってみるぞ。

 野崎先輩がやっていたように。

 足を肩幅に開いて、お腹に力を入れて、両腕を持ち上げ……

「背中が反ってきてるよー?」

「わあっ!?」

 宮野先輩がすぐ隣にいたが気づかなかった。

「あと、フラフラしてるよー? 重心が上がってきてる。重心を下げて、 胴は、どっしりと、動かさなーい!」

「わ、わかりました。」

 背中を反らさない…胴は…どっしりと……重心を下げる……

 これらに気をつけながら、慎重にセットアップをしようとする。足元からフラフラしないように、内股を意識し、胴体も伸びたりしないように、お腹を意識する。なんだか、全身の筋肉を使ってる気分だ。

 先輩方は、射つときに毎回こういうことにも気をつけているのだろうか。もしかしたら、気をつけていなくても、体幹がしっかりしているから、自然とできてしまうのかもしれない。

 セットアップからそのままドローイングをする。

「押し手を返したり、肩を落とすことも、このときに同時にやるんだよー。」

「はいっ!」

「アンカーはいつも同じ場所、人差し指を顎に沿わせて、外過ぎないようにねー。」

「はいっ!」

 宮野先輩が横で指導してくださることに対して、必死に返事をするが、混乱しそうだ。

 気をつけなければならないことが多い……

 何度もシャドーシューティングをして、宮野先輩に直してもらう。

「また、押し手を返すの忘れてるよー。」

「はい!」

 宮野先輩は、言い方がふわふわしてるが、しっかり指摘してくれる。

 セットアップからのドローイングをしながら押し手を返す……

「あとー、セットアップが高すぎると、肩が上がりやすくなるからねー。」

「はい!」

 何度も繰り返し、身体に覚えさせる。

 そして、宮野先輩からの指摘が少なくなってきた頃。

「じゃあ、ゴムチューブ使おうか。」

 やっと、ゴムチューブの許可が下りた。

 輪っかにしたゴムチューブを左手の親指の付け根にかけ、右手の人差し指、中指、薬指で引く。

 重心があがらないように。ふらふらしないように。押し手を返すことを忘れないように。

 セットアップ。

 そして、ゆっくりとゴムを引いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

洋弓部へようこそ! 月夜見柚香 @tsukiyomi_yk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ