第3話 2.ハロウィンナイト

タッタッタッタッ。


ホールを走り抜けようやく扉にたどり着いた。後ろから追いかけてくる歓声を聞く限り、どうやら熱心な女子たちに追いかけまわされているらしい。私を抱えていることでさらに火がついたようだった。


―――――。


あれ?どうしたのだろう?


「…開かない」


彼は肩でドアを押して開けようとしたが、鍵が掛かっていたために開かなかった。


「ソルオ様ー!!」

「お待ち下さいーー!!」

「その女は何ですの!?」


ソルオと呼ばれた彼はそれを聞くと焦った顔をして少し離れた場所にある隣のドアへ向かった。


しかし、案の定そのドアも開かなかった。


「だめだ…。今夜は開放されてるのがここしかない…」


ソルオの顔がみるみる真っ青になる。ミスターコンの始まりの放送が聞こえた。するとソルオは、ほんのホッとした顔をした。


「…そっ、外は!?」


私はとっさにダンスホールの構造を思い返して言った。ダンスホールが開放されているなら、大きなガラスドアから外に出られる場所があったはずだ。あとは上の内向きのバルコニーがある階に行くしかないが、階段の所在がわからない上に(あくまで私がわからないだけだが)、私を抱えたこの状態で階段を駆け上がらせるのはあまりにも申し訳ないと思った。


「あっ!行けると思う!ありがとう」


ソルオにお礼を言われて良い案だと思ったのもつかの間、私たちは今そのガラスドアとは真反対の方向にいた。おまけに追っ手はその方向からやってくる。


あ…、だめかも…。



だが次の瞬間―――、



私はダンスホールの外にいた。


「えっ!?」

「ねえ、僕ら魔法使えるの忘れてない?」

「あっ…」

「やっぱりね」


そう言ってソルオは微笑んだ。ついでに私の髪と服のボタンに向かって呪文を唱える。すると髪とボタンはするするとお互いに離れた。


「あ、ありがとう」

「いいえ、こちらこそ」


「それにしてもテレポーテーションは高度な魔法だよ。使えるなんて、その、すごいね」


私は少し緊張しながら言う。男の子は少し苦手だ。


「そ、そんなことないけど、ありがとう」


ソルオは少し照れくさそうに言った。


しばらくの間、お互いに何を話したら良いかわからず沈黙が続く。ホール内から楽しげなハロウィンの音が聞こえていた。


「…ソルオくん?は、何で追いかけられてたの?」

「ソルオでいいよ。僕はちょっとミスターコンに出場させられそうになってたのと、この後のダンスパーティのバディに誘われそうになってた…」


なるほど、だからさっきホッとした顔をしたのか。


「大変だね……。私もそういうのは得意じゃないかなぁ。でもソルオはきっとかっこいいからそうなっちゃうんだね」

「ちょっ…かっこいいとか普通に言わないで…」

「あっ、ごめん…!」


照れくさい時間が緩やかに流れる。


「それで、僕はキラキラした目でじっと見つめられるのがあんまり好きじゃなくて、逃げてたんだ」


「なるほど。でも残念だなぁ、ミスターコンに出てたら優勝できたんじゃない?」


「そんなことないよ。僕の友達のクルードってやつが出てるんだけど、そいつの方がもっとずっとかっこいい」


「あ!知ってるよ!クルード!さっきぶつかって知り合いになったの。私の友達のベリーと一緒にコンテストに行った」


「かっこよかったでしょ」

「うん、まあ」


クルードも十分かっこよかったが、私的わたしてきにはソルオの方がかっこよく見えた。だが、それを言うとさっきの繰り返しだ。


「あ、そうだ、結果どうなったんだろう?」


ホール内をガラス越しに見つめるとちょうど結果発表らしかった。中はよく見えないが、声は良く聞こえる。


「残念…。ベリー準グランプリだったみたい」

「それでもすごいんじゃない?クルードは3番だったみたい」


ソルオはあれ、おかしいなぁと言いたげな顔をしていた。


「ふっ」

わたしは思わず笑った。

「何…?」

ソルオも少し不思議そうに笑いながら答えた。


「いいえ。そういえば、ダンスはいいの?」


館内放送がダンスパーティがもうそろそろだということを告げている。


「さっきの話、聞いてた?」

「ふふ、冗談。私とどうかな?って」


ソルオは少し考えこんでいるようだった。私はと言えば、こんなにかっこいい人と踊れたら幸せだなってほんの出来心。


「ふふ、ごめんねこれも冗――」


その言葉はソルオによってさえぎられた。


「僕でよければ」

「えっ!?いいの!?」

「君だからだよ。いつもの苦手な感じがしない。えっと……そういえば名前聞いてなかった」

「あはは、そうだね、私は楓。よろしく」

「知ってると思うけど、僕はソルオ。よろしく」

「何だか自己紹介みたい」

「そうでしょ」

「違うよ、ダンスのお誘いだってば」

「そっか。それもそうかも」


やがてダンスの音が流れ始めた。

私はソルオの左手に自分の右手を乗せる。


2人は踊り出した。ゆっくりと、楽しそうに。でも、なんだかすごくおかしかった。


「私たち、ヘンじゃない?」

「どうして?」

「私は魔女の仮装で、」

「僕は血まみれ騎士ナイトの仮装だ」

「そうだったの!?」

「無理やり着せられただけ」

「…ふふ、そうだと思った」


ただただ、緩やかで心地よい時間だけが過ぎていった。


やがてダンスが終わる。

「ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」

私たちはお互いにお礼を言う。


「最後にいたずらをしよう」

ソルオはその通り、いたずらっぽく笑って言った。

「何をするの?」

私もワクワクとした気持ちを隠しきれずに言う。



「ここを抜け出す。箒に乗って」

「最高のいたずらだね」



2人は静かに笑い合う。



その2つの影は満月に向かって消えていった。



-fin-

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ハロウィンナイト 氷菓 @kimi287

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