そろそろ記憶部屋に呼び出しが入ります

ちびまるフォイ

部屋片付けないと走馬灯つくるのめんどいわ

神様の声がしたかと思うと気付けば白い部屋に閉じ込められていた。


「ここは……」


「記憶の部屋じゃ。お前に用があって記憶の部屋に来てもらっている」


「神様が俺に何の用ですか? 転生?」


「小説読みすぎ。お前さんの記憶する容量が部屋の容量を超えかねん。

 記憶部屋の整理をしてもらわにゃ走馬灯が作れなくなる」


「え! 走馬灯って神様が作ってたんですか!」


「当たり前じゃ。でも長すぎると納められないから

 記憶の部屋がちらかっている奴にはこうして整理してもらっている」


「でも記憶消すのは……」


「つべこべ言わずに片付けるのじゃ。はいこれゴミ袋。

 この中に突っ込んだ記憶は消えるから片付けるんじゃよ」


「神様が走馬灯作るときに必要そうな記憶かき集めればいいじゃないですか」


「めんどくさいわ! あと神に逆らうな!

 ゴミ袋が規定の重さに満たないと記憶部屋を初期化するからな!!」


「ムチャクチャだよぉ……」


しぶしぶ記憶部屋の整理をすることに。


部屋の壁には思い出の記憶写真がいくつも貼り付けられている。

足元には思い出の品々が転がって、思い出TVでは懐かしい映像が流れる。


「うわぁ、これ小学生のときの遠足じゃん。まだ覚えてるなぁ。

 このときハチに刺されたんだっけ、痛かったなぁ」


ふと見ると、子供の時に書きたかった漫画のアイデアが落ちている。


「あ! そうそう! 昔はヒーローものにあこがれてて

 大人になったらこんなマンガ書きたいって思ってたんだよ!

 まだうっすら覚えてるんだよなぁ」


いらない記憶をゴミ袋に入れつつ、自分の歴史を追体験していく。


記憶は「しっかり覚えている詳しい情報」ほどゴミ袋を重くし、

「うっすら覚えている記憶」はたいした容量にならない。


「うーーん。ゴミ袋を重くしなきゃいけないけど、

 新しい思い出ってあんまりないんだよなぁ」


いつからこんなに毎日に新鮮味がなくなったのか。

子供の時の記憶は色鮮やかに記憶部屋に散らばっているのに、

ゴミ袋を重くしてくれる最新の記憶はあまりない。


入れたとしても思いが薄いのか大して増えない。




数時間後、神様がやってきた。


「しゃてしゃて。どれだけ片付いた……ってうおおおおい!!!」


神様は劇的に変わっていない部屋を見て目を飛び出した。


「お前ほんとうに片付けたのか!? ああん!?」


「片付けてますよ、ほらゴミ袋」


神様は俺から受け取ったゴミ袋を記憶測りの上にのせる。


「……10kg。ぜんぜん足りないのじゃ」


「でも結構捨てましたよ? 残りは大事な記憶ばかりなんです」


「やかましい!! 同じ言い訳をゴミ屋敷の住人から聞いたわ!!」


神様は眉間にしわを寄せまくる。

しわが「神」の字になる。


「よいか!! 残り2時間以内にこのゴミ袋に100kg以上の記憶を捨て入れること!!

 1mgでも足りなかったら初期化するからな!!」


「え、えええええ」


「逆らっても初期化する。口答えしても初期化する。

 神様に定期的にえっちな本を提供しなくても初期化する、よいな!!」


「わ、わかりました。でも少しお願いがあって……。

 片付けている最中にうるさくなるかもしれませんから離れててくれませんか?」


「何をそんなにうるさくなるんじゃ……」


「大事な記憶を無感情で捨てられるわけないでしょう。

 血の涙を流しながら嗚咽をもらして捨てることになりますから」


「……まあよい。言うておくが、この記憶部屋の横にもほかの記憶部屋がある。

 あまりうるさくしすぎるようだと許さんからな」


「わかりました」


「わしはちょっと記憶の外に出てくる。

 戻るまでに片付いてなかったら……な?」


神様は最後だけどすのきいた声で脅した。

もしかしたら消されるのは記憶だけじゃなくなるかもしれない。


神様は用事を済ませるために記憶部屋から出た。

目的地に向かう途中でふと足を止めた。


「あれ? なにか忘れているような……?」


忘れ物をしているかもしれない。

そんな漠然とした不安が引っかかっているので記憶へと戻った。


記憶廊下を歩いていると工事中のようなバカでかい音が聞こえた。



ドカン!バカン!!バキ!!



「な、なにしとるんじゃあのバカ!!」


神様は慌てて記憶部屋に押し入ると俺が壁を破壊している現場に出くわした。


「あ゛っ……」


「おい……バカでかい音が聞こえたかと思ったら、なにしとるんじゃ?」


こうなったら観念するしかない。


「実は……どう頑張っても規定の重さにならなかったので

 隣接する隣の部屋の記憶からいらなそうな記憶を入れてかさまししようと……」


「お前、ほかの人の記憶を消して重さをかせごうとしてたのか!」


「はい……」


「なんちゅーことを思いつくんんじゃ! これはダメだ!

 お前のような悪知恵を働かせる悪人の記憶はリセットじゃーー!!」








記憶部屋は変わらない。

いっこうに初期化されない。


嫌な予感がした神様はおそるおそる訪ねた。


「お前……もしかして、反対側の部屋は……?」


「はい。先に壁に穴開けて不要そうなものを捨てました」


反対側の壁にはバカでかい穴があけられていて、

穴の向こう側の部屋には神様思い出の品々が散らばっていた。



「隣の部屋から初期化するための記憶を捨てておきました」


「わしの記憶勝手に捨てるなーーー!!!」



以降、神様の作る走馬灯は大長編になったとかならないとか。

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