第13話 お宝探し その5

「街なかにあるやつはすぐに片付けられるけん」

「ああ、そりゃそうじゃ」


 そうして私達は笑い合いました。この日は探すだけ探してそれから別れます。歳の離れた友達として、今度会ったら宝探し以外の事でも何か話が出来たらいいなと、そう思いながら別れたのでした。


 そうして私の手元に残ったのは宝探しで得た結構な量の宝石です。もうポケットに入らないくらいの分量があります。これだけ多くなると、少しばかり欲も出てきます。不思議な由来で元々この世界になかったこの宝石ですが、プロが鑑定したらどれくらいの価値になるのか知りたくなったのです。


 私は早速街の宝石屋に行ってこの宝石を見てもらう事にしました。高い値がついたら売ってもいいかなと考えたのです。


「これ、売れるやろか?」

「うーん、綺麗なけど、これ何やろか?」


 最初から予想はしていましたが、やはり既存のどの宝石とも違うこの鉱物は簡単に値がつくような代物ではないようでした。

 石の正体を聞かれた私は、信じてもらえないような話をするよりかは誤魔化した方がいいだろうとうまく話をはぐらかします。


「やっぱ綺麗な石ってだけじゃ売れへんやろか」

「うーん、難しい思うよ。あ、パワーストーン言うて色んな効能があるって事にしたら売れるかも!」

「儂そう言うん嫌いやけんええわ。有難う」


 これが宝石として売れないと言う事が分かれば、もうそれだけで十分です。話を聞けた私は宝石屋を出ようとしました。

 するとその店の主人が、私の見せた宝石に何か未練でもあったのか、ここで引き止めようとします。


「ちょ、これどこで手に入れたん?」

「そりゃ……企業秘密や」


 宝石の入手先を聞かれても答えられる訳がありません。誰に話したところで、決して信じてはくれないでしょう。それもあって私はそれっぽくまた誤魔化したのですが、店主はそのくらいでは引き下がりませんでした。


「なぁ、もし良かったらこれだけでええけん、儂に譲ってくれへん?」

「ん? ええよ。ただでは困るけどな」


 正直手元に宝石があんまり多くてあっても仕方がないと思っていた部分もあって、私はいくらかの値段交渉をしてその宝石を手放しました。儲けと言うにはささやかなものでしたが、遊びで得た副産物だと思えば結構なものです。

 私は帰り道にスーパーに寄ってちょっといいお惣菜を買って帰りました。



「え? 人にあげたんで」


 後日、またばったりと洋一と出会ったので、近況報告がてらにこの日の事を話すと、彼は大変残念そうにしています。私はその理由が分からず、思わず聞き返しました。


「なんかまずかった?」

「あれ、縁のない人が持っとったら元に戻ってしまうんよ?」

「そんなんはよ言うてや! 知らんかったけん!」


 元に戻ってしまうというと、アレが元の猫のアレに戻ってしまうと言う事です。宝石屋の主人の元にあるやつや、娘にやったやつがそうなってしまったらと思うと――私の頬に冷や汗がたらりと流れます。

 そんな青ざめた私の顔を見て彼は急に大声で笑い始めました。


「あははは! 嘘よ嘘! 石になったら石のまんまよ!」

「冗談うまいわ。儂信じたけん」


 さっきの話が嘘で本当に良かったと私はほっと胸をなで下ろします。そうして笑う洋一に合わせて私も共に笑いました。ひとしきり笑って落ち着いた後、彼はまた真面目な顔に戻ります。


「でも人にあげたんやったらここまでやな」

「何で?」

「あの石が元に戻るんは嘘やけど、あの石の存在が縁のない人に渡ったらもう宝石にはなってくれへんのよ」

「えぇ、残念……」

「ほんまよ」


 それからもう少し具体的に聞いてみると、まずあの宝石を出現させるには異世界とこちらの世界、この2つの世界の住人がひとりずつ同じ猫に認められ、なおかつこちらの世界で異世界の猫がそう言う行為をする事、そうしてそれを埋める事が条件なのだそうです。考えてみれば結構厳しい条件だなと思います。


 こちらの世界ではこの宝石の評判は散々なものでしたが、では向こうの世界でもそれは同じなのでしょうか? ふと気になった私はそれを尋ねます。


「で、そっちやったらあの石は売れるん?」

「ほりゃほうよ、ボロ儲けよ」

「あー、そっちの世界が羨ましいのう」


 どうやらあの宝石、向こうの世界では価値が認められているようです。ボロ儲けとまで言った洋一の顔は金持ち特有のいやらしいものでした。そう見えたのは私が彼に嫉妬してしまったせいもあるのかも知れません。私もまだまだ人間が出来ていませんね。

 その後も他愛もない会話を続けていると、どこかで見たようなデブ猫が彼の足元にやってきてスリスリと顔を寄せています。


「お、来たんか、良し良し」

「あれ? その猫」


 私がその猫の事を思い出そうとしていると洋一は軽々と猫を抱きかかえました。そこで気がついたのです。その猫こそ、かつて私を道案内してくれたあの時のデブ三毛猫だと。

 私がひとり納得していると、彼がニンマリ笑いながらネタばらしをしました。


「この猫、儂の飼い猫なんよ」

「ああ、そう言う事」

「そう言う事よ」


 そう、最初から仕組まれていたのです。彼は異世界に猫を放って猫好きを呼び寄せていた。そこに猫好きの私が引っかかって、後はうまい具合に引き会わされて――。

 全てのからくりが分かって私が感心していると、洋一は猫を抱いたまますうっと消えていきました。


「ほな、またね」

「あ……っ」


 角を曲がると姿が見えなくなっていたあのからくりの謎もこうしてあっさりと解けました。目の前で起こったこの信じられない光景に私はしばらく立ちつくすしかありませんでした。



「父ちゃん、もうあの宝石ないん?」

「もうないぞ」

「なーんだ。つまらんなあ」


 宝石が手に入らなくなっても、相変わらず娘は私にアレをねだります。どうやらあの宝石をとても気に入っているようです。私は娘が喜んでくれるのが一番の宝物なので、一連の宝探しはそれだけでも十分価値のあるものだったと今でも思っています。


 あれから洋一とは会っていません。いつも向こうから顔を出していたので当然と言えば当然なのですが。きっと今頃は別のカモを探して当時の私と同じように一緒になってお宝探しをしている事でしょう。

 そんな彼の姿を想像しながら、休みになれば私はまた猫を探しながらブラブラと近所を散歩するのです。


 何処かに素敵な出会いが隠されていやしないか、そんな事を楽しく想像したりしながらね。

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村上さんちの事情(仮) にゃべ♪ @nyabech2016

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