第2話 不人気イラストレーターが現実世界から来るようですよ
「で、この暗闇はいつまで続くんだネフィア」
「知らないよ、自分で何かしてみ?」
「おい、随分怠惰な守護霊だな!!」
俺の名前は神内浩介、不人気イラストレーターという汚名を背負った俺はイラスト業をやめようと思っていた矢先に送り状のないダンボールが届くのだがそれはいいとしてだ・・・。
「じゃあ時空の剣でどうにかしてみるかネフィアさん?」
現実世界の俺の部屋から時空の剣で異世界に向かっている最中である俺と守護霊であるネフィアは時空の暗闇の中で彷徨っていた。
「いいけどこれ以上やると君死ぬよ?」
「随分こわいな!ほら守護霊ならすごい魔法を使ってくれても・・・」
時空間内だとしても羽根ペンにベラベラ話しかける姿は世間から見たら「キ〇ガイ」にしか見えないだろう、だがネフィア曰く、俺がネフィアに話しかけたりネフィアが俺に話しかけた際は俺たちの会話は俺又はネフィアに許可されない限り聞こえないらしいのだ。
「あ、見えた!」
「無視かよ!!」
まあこんな感じにコントしながらやっとの思いで見えた光だが、遠目で見ると青くて広い所と予想し、同時進行で俺の脳裏にはなぜか嫌な展開が浮かび上がる。
「ってことは・・・」
それ以上予想する暇さえなく暗闇から出た俺に待ち受けていたのは落下、まさしくこれは一種の死亡フラグでもあるのだが、一方で思い出すように「そうだ」と間をおいてネフィアは片手に強く握っていた羽根ペンから出てくると笑顔でこう言った。
「僕を使えばこの状況を打開できるかもよ」
本当は落下イベントの前に言ってくれれば最高なのだがこの守護神は怠惰な部分があるという所が少々残念だった、もちろん絶体絶命でピンチの現状から逆転できる方法があればいいのだが羽根ペンの仕組みも分からない今何をすればいいのかが分からない。
「羽根ペンだから何か現状を打破できるもの・・・そうだ、ネフィア」
「ん?なんだい?」
「これは俺の創造力を具現化することは可能か?」
時空の剣でこちらの世界に来た時のようにもしもこれが描いたものが本物になるのであればイラストという素晴らしい力で現状を打開出来るかもしれない、と俺は考えたのである。
「勿論、僕は君のサポートだからね、出来るだけのことはサポートする」
「おっし、俺の創造力でこんな状況から打開してやる」
俺は羽根ペンを利き手に持ち変えると空中に何かを書き始める、異世界転移系ライトノベルのイラストレーターの仕事を任された時の知識とこれまでの経験を生かして書き上げたのはこれだった。
「いでよ、
鉄の鎧を纏った不死鳥という設定のこの鳥は俺が羽根ペンの先を描き終えた場所から離した瞬間、紙でもない場所から自分の書いた絵がまるで生きているかのように飛び出して空を飛び回っていた。
「すげぇな異世界は、よしこれで・・・・」
俺は指笛で空をウロウロ回っているエルブルズを呼ぶと主人に呼ばれたエルブルズはその音に反応して俺とネフィアのもとに飛んできて俺とネフィアを背中に乗せると大きく鉄を纏った羽根を閉じいっきに地面すれすれまで行ったと思えばそのまま低空飛行で飛ぶ。
「ねぇ浩介の絵の実力って周りの芸術家より凄いよね、家の中にある絵も上手かったし賞状だって」
まるでジェットコースターのようなエルブルズに乗りながらネフィアは問う、それに俺は髪を整えながらも溜息を吐き
「あれは単なる努力したから功績を残せたんだ、何もない一つの紙には人を喜ばせる物もあれば悲しませるものもある。 でもなネフィア、あれはあの世界だけで俺にはこれからこの世界でやり直すんだよ」
「そっか、浩介の割にはいいこというじゃん」
と調子良さそうに俺の肩をポンポン叩いた後にネフィアは突如に後ろから抱き着いてきて
「さっきも言ったけど僕は君の守護者としてここに誓うよ、君を全力でサポートすることを」
顔に喜色が現れたような表情で言うネフィアに俺は片手で抱き着いているネフィアの髪を撫でると
「おう、俺がピンチの時に頼むぞ」
と、笑顔で返した。
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エルブルズの背中にまたがって数時間。 森の中を低空飛行で飛んでいるとやっと広い野原に出た俺達は辺りを見回しながらとりあえず休憩場所を探していた。
「さてと、どこか休めるところは・・・ん?」
大きな野原に一つ大きく聳える城、その近くにある街にあれは王都だと俺でも一瞬で分かった。
「おい、ネフィア着いたぞ」
「うにゃ・・・もう着いたの」
目を擦りながら起き上がるネフィアは現実世界からここに来る際に使ったマナのせいで眠気がどうたらこうたらと言っていた、でも飛んでる最中でもありグラグラと揺れるエルブルズの背中で寝るというネフィアの器用さに祝福したいのだがそれは良しとしよう。
「んでエルブルズはどうすればいいんだ? こんな巨体なんて隠せるところなんてないぞ」
「それは主である君の好きにすればいいよ、羽根ペンなら消すことも出来るし」
へらへらした顔で普通にエルブルズを消すというネフィアの発言に一瞬、締切間近なのに突如編集部から呼び出される作家みたいにイラっと来たがとりあえず殴りたい気持ちを心の中に抑えた。
「いや、それはしない。 とりあえずはエルブルズをさっきの森に隠れさせて王都に行こう」
イラストレーターの仕事をしていた俺にとって絵はもう一人の自分と思っているため例え気にいらないのが出来たとしてもボツくらったとしても捨てたりすることは絶対にしなかった。
「うん、じゃあ後は君のやり方で過ごすといいよ、言い忘れてたけど僕を具現化できる人でよかった」
ネフィアはそう言ってあくびをしながら羽根ペンの中へと戻っていくのだった。
「さてと、俺はどうするか・・・」
ネフィアは疲れてるから呼び出すのも可哀想だしエルブルズを森へと行かせたもあってまあ王都まで数キロくらいあるのだが異世界転生・転移系ライトノベルだとギルドに行って仲間を集めることからなのだが俺はまずは王都までたどり着けるのかが問題だ。
「そうだ、馬車を描くか」
俺は羽根ペンを出すと地面に馬車を描き始め、そして描き終わりの所から荷台と馬が具現化して飛び出してきた。
「さて、馭者なんてやったことは無いが・・・」
俺は御者台に座り、二頭の馬を制御する鞭を二頭の馬に強く叩きつけると痛そうな鳴き声と共に馬は王都に向けて全力疾走で走り出す。
「うぉぉ速ぇぇぇ!」
風のように走る馬車に驚嘆の声を上げながらも王都へ勢いよく走り出したのはいいとしてこの後は・・・どうこの興奮した馬を止めるのか考えてもいなかった。
「行くぞ王都! 俺の新たな人生の幕開けだぁぁぁ!!」
それが最後の一言だった、その後に俺は多額の借金を背負うことになるのは誰も知らない・・・。
不人気イラストレーターの異世界譚詩曲 小鳥遊 夢乃 @Takanasi_yumeno
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