第一章 イラストレーターの異世界転移

第1話 送り状のないダンボール

人間には必ずしも得意・不得意分野があるのは当然だ、数学が全然出来ないくせに英語はペラペラだったり、楽器を弾くのが苦手なくせに歌が上手かったりなどと不得意が1つあったら1つ得意なものがあるはずだろう。 自分もそうだ、勉強は一切出来ないくせに絵が誰よりも上手かった、絵のコンクール入賞した実力の持ち主だった学生時代があった、でも・・・。


「道、どこかで間違えたんかな」


成人して22歳になった俺は「イラストレーター」という仕事をしているのだがそれはライトノベルの表紙や挿絵などを書く仕事だと皆は思っているだろう、でもそれは違う。 他には雑誌・ポスター・カタログ・パンフレットなどを依頼主が言ったとおりに書く仕事でもあるのだが、それを21歳の若さで失敗した俺は「不人気イラストレーター」という汚名を背負わされ仕事をする気力がほぼない状態で毎日を送っていた。


「はぁ・・・諦めて何かできる仕事を探すかぁ」


イラストレーターの仕事を始めて約2年と数ヶ月経った11月下旬、あまりの書く気力の無さにペンタブやパソコンの周辺機器が散乱した部屋の中のベットに横たわりながらスマホの画面を見る俺はイラストレーターを辞めて今からどこかの企業に就職するか、汚名を背負いながらイラストを描くか半々で何とも言えない状況であるが、だからって「これから頑張ろう」とか前向きな言葉を自分にかけられる自信も今の俺にはなかった。


「このオンボロアパートに住んだのはペンタブレットやらなんやら揃えるのに金がかかるからであってこんな状態ならいいマンションに住めばよかったな」


今更の後悔は遅すぎるが誰もいないこの部屋に自然とマイナス思考の言葉を放つことで少しだが気分が落ち着くのだが高校時代の友達から友達付き合いに呆れて勉学に励んでいたせいか人生に行き詰っている今、相談相手が居ないというのが現在の悩みでもある。


「それなら異世界に転移でも転生でもして可愛い女の子と旅をしたりしたいよなぁ」


と、叶いもしないような妄想を誰もいない部屋で一人ベットに横たわりながら呟くと同時に玄関の呼び鈴が鳴った。


「こんな夜になんだろう」


夜11時頃に呼び鈴が鳴ったという事もあり、怪しいがとりあえずは出てみるしかないだろうと玄関のドアに近寄って覗き穴から外を見ると見た目は中年男性の配達員が中くらいの段ボールを抱えて立っていた。


「あれ、配達ってこんな遅くまでやってたっけか」


配達時間が何時までなどは知らないが外の居る配達員の姿に少々疑問が残る。だが気のせいだろうと俺は荷物を受け取り、部屋のテーブルに置いた。


「さてとどうせまた悪戯だろうけど今度はどこから送られてきたのかな?」


俺はテーブルに置いてあるダンボールに張り付いている送り状を確認しようとダンボールの面を片っ端から見ていくが送り状なんてものは張り付いていなかった。


「あれ、じゃあこれはどこから送られてきたんだ?」


これダンボールを配達員が自前で持ってきたという考えも浮かぶが差出人の無い荷物を配達するのはないと察した俺は顎に手を当てて考えるポーズを取る。


「予想だが、中身は軽いものだと考えられるな、怪しいけど開けてみるか」


送り状のない荷物は配送ができないようになっているしそもそも何故あの配達員は俺の住所が分かったのかを考えると少々怖いがこのダンボールの中に答えがあるのなら開ける以外に考えられないと思った俺はダンボールに貼ってあったガムテープを器用に剥がして開けてみる、すると


「羽根ペンと手紙?」


送り状も無かった箱の中にはなんと薄汚れた羽根ペンと「手紙」と書かれた白い封筒がちょこんと置いてあるだけで他には何も入っている様子はない、だとしても何故羽根ペンを自分宛に送るのかが不思議なのだがそれはまずは置いておいて俺はダンボールの中にある封筒を手に取って中にある手紙を取り出して読んでみた。


『お忙しい中お手紙を送って申し訳ございません、もし今この手紙を読んでいるのであればあなたのお手元にある羽根ペンを持ってみてください・・・』


ただそれだけだった、2枚あるのに内容が書いてあるのは1枚のみでそしてたった二行、句読点含め64文字である・・・正直言ってふざけているようにしか見えない。


「ま、まあ手紙だけじゃあ分からないだろうから書いてある通りに羽ペン持ってあげるよ」


手紙の件で呆れながらもダンボールにある羽根ペンを取り出そうと触れた瞬間、いきなり薄汚れていた羽根ペンが元の美しい白色に戻ったと思ったら今度は急に羽根ペンの羽根の中から黒いワンピースを着た女性が俺の方向に飛んできた。


「うひゃ~久しぶりの外だから腰とか何やら痛くてたまんないよ、てか君は誰?」


「こっちが聞きたいわ!」


俺を押し倒して身体を跨いでいる女性は「あ、そっかそっか」と言いながら立ち上がると腕を組んで


「僕の名前はネフィア! この羽根ペンの守護霊さ」


と、自己紹介をした。 異世界転生系ラノベの展開ではこの後に異世界に行くっていう感じだがその前に薄汚れた羽根ペンが元の色に戻ったり、そこから女性が急に飛び出してくるのは少し意味が分からなさすぎる。


「なあ、君はなんでここに居るんだい?」


俺の脳内予想では「封印された」とかそんな感じだと思っているがそれはあくまで自分の中で予想したのであって羽根ペンから出てきた女性の話を聞かなければ何も進まない。


「えっとね、僕は元々人間だったんだけどある日、殺されたんだ」


さっきまで笑顔だった女性の顔が一瞬だけ悲しそうな顔になったのを俺は見逃さず、これ以上言わせるのも辛い過去を思い出させるきっかけになってしまうと思い俺は短いため息を吐き


「そうか、大体状況は把握した、んで俺はこれからどこに行くんだ?」


と、話題を逸らした。 まあ過去やらなんやらうんぬんかんぬんは向こうから話してくる時まで待つか、話せる状態になるまで待つかだろう。


「じゃあ行くには羽根ペンが必要だから君は羽根ペンを持ってね」


俺は床に落ちている羽根ペンを持つと隣にいた女性が羽根ペンの中に戻っていく、それに驚いてはいたがとりあえず後の説明を待つことにした。


「じゃあ行こうか、おっと忘れてた・・・まずは羽根ペンの羽根を掴んでみて」


言われた通りに俺は羽根ペンの羽根を思いっきり掴んでみると羽根ペンからなにかの剣に変化した。


「それは時空の剣といってそれが無いとこっちに戻ってこれないんだ、じゃあ思いっきり床に振ってみようか」


「はぁ!? そんなのやったら床が切れるどころじゃねぇぞ!!」


「いいからいいから、大丈夫だよ」


俺は「本当だな?」と、女性を信じて剣を床に思いっきり振ると徐々に自分の部屋が黒に染まっていった。


「おいおい大丈夫なのか?」


「うん、成功だよ。 てか名前で呼んでれないかな」


俺に囁きかけるネフィア、予想だが絶対ふくれっ面で言っているだろうと予想しながらも


「はいはいネフィアさん、まあ後のことは向こうで考えるかぁ」


と俺は簡単に流した。





あとがき


更新遅れて申し訳ありません、リアルの都合やらキャラの見直しなどで本篇を書ける余裕がなかったので書けませんでした。 2話も早いうちに書き終えるよう頑張るので応援よろしくお願いします!!


羽根ペンの守護霊の名前は「ネフィア」になりましたので近いうちに登場人物紹介欄に載せておきます。



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