【涙の飴玉】=短編集=

恋和主 メリー

【王様と人魚】

【王様と人魚】


 人魚に体温がないって話は知っているかしら?

 じゃあ、人魚を連れた動物界の王様の話は知っている?


 それはこんなお話。動物界で一番強い王様は何でも持ってる。力も国も綺麗なお妃さまに財宝。だけどそんな王様も一つだけ悩みを抱えているのです。

 その悩みとは国の中に広がり続ける魔女が住み着いた呪いの森があること。その森には王様ですら近づきません。


 そして――コレはそんな森ができる前の話。


 ある日王様は国の隅にある海に出かけたときに偶然にも人魚に出会いました。王様は人魚のことを気にいり、いつも背中に人魚を乗せて歩くようになったそうです。

 王様は誰かから人魚について訊かれるといつも「こいつには体温がないから、乗せていても気持ち悪くないんだ」と答えるのでした。


 そうしながら夏が来て、秋が来て、冬、春、数度目の夏が来ました。人魚はとても王様を慕い、王様の傍に居ることを願いました。けれど王様の方はいくつもの季節を過ごしていると、気まぐれに関わるだけになったのです。


 最終的には冬の寒い日や夏の暑い日だけ人魚を乗せて歩くようになりました。王様は言います。

「こいつには体温がないから丁度いい温度になって気持ちがいいんだ」


 だけどそんなことってあるでしょうか。体温がないからって温かく感じたり、冷たく感じるなんてこと。そう。人魚は嘘を吐いていたのです。

『ワタシには体温がないんです』と。

 本当は王様が気持ちよくなるように体温を調節し続けていただけ……


 ときが経つと王様はさらに自分の都合の良いように人魚を扱うようになりました。それでも人魚は王様の傍を離れませんでした。海に戻ることもせず。


 人魚は自分では歩けない。海に行けるのは王様が乗せてくれていたときだけ。海に行けなくなった人魚のうろこはどんどんと傷だらけになり、力を失い、醜い姿になっていきました。


 だけど王様以外に人魚なんて歪なものに関わる人はおらず、ましてやそんな醜い姿の人魚を助ける人なんていません。王様も人魚の元に来ることはなくなり人魚は森に住みつき眠りにつこうとします。


 しかし世界は残酷なもので、人魚は不老不死だったのです。だからどんなに苦しくても死ぬことはなく、こぼれる涙は周囲の植物を腐らせていきました。

 それでも人魚は薄く笑いながら『これは海を離れたワタシの罰。だけど一時は確かに幸せで、それにもしかすると――』と言って今でも呪われた森で王様のことを待っているのです。幸せだったときの夢を見て、涙をこぼし続けながら。魔女と呼ばれていることも知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【涙の飴玉】=短編集= 恋和主 メリー @mosimosi-usironi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ