惚れた弱みでやつをボコにする話

水木レナ

第1話月がどうとかじゃなくって!

「月が綺麗ですねと言ったんだよ、ボクは!」


 虫が鳴いている。言っておくが目の前のこいつを虫だというわけじゃない。


 ちょっとまえに漱石の逸話の話をTVでやっていたから、盛り上がって漱石の逸話集を見つけ出して渡したのだ。


「ふーん、そしたら?」


「彼女、だから? って聞き返したんだよ! こんなのってありかよ?」


「ようするに、普通にフラれるより堪えた、とゆーわけ……か」


「どうして親友のおまえにはわかるのに、彼女には伝わんないんだ!」


「俺が悪かった……あんなもの渡したから」


 それから二人で願掛けをした。今年の中秋の名月は実は二日ある。四日と五日の二日間。だから満月には願のかけ放題。


「紀子がふり向いてくれますように。紀子がボクを好きになりますように……それから、それから……」


 やつめ、得体のしれないきょうきを発しておる。――ルナティックか。俺は思う。だが、それにつきあうのも惚れた弱みなのだ。


「願掛けするなら、静かにな。名月が泣いてるぞ」


 ちょっと黙ってやつは月を見上げ、


「ほんと、綺麗な月だなあ」


「俺に言うんじゃねえ」


 と言ってボコにする。


「ィテッ! テテテッ、よせってば~~」


 また惚れるだろうがよ、心で呟いて自嘲わらう。


 


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