第4話 ベルモント王国
城下に着くと市街のメインストリートと言われる道路は旺盛に賑わっていた。
城と城下町を川で分断するような構造。
橋の上にもたくさん屋台が並んでおり人で溢れている。
ヒヨリは路沿いの出店に寄っていき、
「これ可愛い!」
花の形をした緑色の綺麗な宝石の髪飾りのようだ。
彼女の赤毛に緑の髪飾り、赤と緑は補色関係にあるのでコントラストが強い組み合わせ。
喧嘩しそうなこの二つの色は逆に言えばお互いを強調することができる。
例えばピザのトマトソースにバジルを塗すというのは緑に深みを持たせ赤色をより鮮やかに見せるというのもテクニックである。
「どう? 似合うかな?」
「おう、似合っているぞ」
「よかった。でもお金ないんだったぁ〜。また今度にしよ」
できることなら買ってやりたいが、残念ながら俺もこの国の通貨は持っていない。
ヒヨリはしょんぼりしていたが少し歩くとすぐに立ち直って楽しそうに飛び回っていた。
「なぁ、そういえばどうして森で倒れていた俺を助けてくれたんだ?」
「そんなの当たり前のことじゃん。それに……」
「それに?」
「あっ、あれ見て!」
俺の質問を打ち切り、ヒヨリが足を止めてまっすぐ指を差す。
「あれがベルモント城よ」
———あれ? どこかで見たような……
この緑色の屋根、同じだ。この城だ。
ありえないこの状況に両脇から気持ち悪い冷や汗が垂れてくる。もしかしてここは……。
どこからかか大声で男の図太い声が聞こえた。
「王女様のお通りだ。道を開けてくれ」
きらびやかな装飾の付いた馬車が目の前をゆっくりと通っていく。
その中に虚ろ目でじっと外を見ている少女がいた。
少女は俺の目の前を取り過ぎようとした時、ふと目が合うと、何か気付いたか否や、驚き目を見開いた。
その後クスッと笑い、俺の目の前を通り去っていった。
水色の髪に薄っすら浮かべる笑顔……間違いない、夢に出てきた女の子だ。そして、あの絵に描かれていた女性。
「なぁ……あの王女の名前って?」
俺はヒヨリに聞いた、少し声を震わせながら。
「あの方はレオナ様だよ。ヴェルトシュタイン家の王女レオナ様。すっごく綺麗な方だよね」
———レオナ。
その名前を聞いて、同一人物であることに確信が持てた。
美術館で見た燃えている城と泣き叫んでいるレオナという水色の髪の女の子。
ここは絵の中の世界……なのか?
でもおかしいことが二つある。
一つは、仮にここが絵の中の世界であるとするならば、どうして俺の夢の中にあの女の子が出てきたんだ?
二つ目は、なぜ絵に描かれた城は燃えていた?
もし未来があの絵の結末に向けて進むのならば、その原因はなんだったのか。そして俺はこれかどうすればいいのか。まずは水色の髪の女の子、レオナに近づくことが賢明だな。
「なぁヒヨリ。その……なんだ、あの子にお近づきになるためにはどうすればいいと思う?」
もっと遠回しな言い方あっただろ俺。
「あの子って?」
「ほら、レオナ様って方」
ヒヨリがニヤニヤしながら、
「なになに〜?レオナ様に惚れちゃったわけ〜?」
「うるさい! 別にそんなわけじゃないけど……」
「分かりやすいねぇ、湊君」
「だから違うって……えっと、教えてください」
「んとねぇ〜、直接会う事は多分できないはずだよ。でも、一つだけレオナ様に近づく方法があるんだ」
「一つだけ?」
「うん。それはね、王の直轄部隊である『シュタイク騎士団』に入ることなの。シュタイク騎士団っていうのは普通の王国の兵士とは違って、臙脂色の制服を着た選りすぐりの超エリート騎士団よ。たしか入団するには、ものすごく厳しいテストを受けなきゃいけないっていう噂なんだけど……」
シュタイク騎士団。あの子に近づける唯一の方法。
自分の実力はまだ分からないが試験を受けるだけの価値はありそうだな。
あの絵に描かれていた場所がここなのかということ。そして夢に出てきた水色の髪のレオナという女の子、この世界について詳しく知るためには彼女に聞くのが一番だろう。そんな勝手な推測を展開する。
「よし! 今からその試験を受けに行ってくる」
歩き出そうとしたその矢先、
「時間がもう遅いかもよ。急ぐ気持ちは分からなくもないけど、日にしたほうがいいんじゃないかな?」
気づいたらもう時は夕暮れ、太陽が川の水平線上に落ちていく途中だった。
「それもそうだな。そうだ、森で助けてくれてありがとう、またどこかで出会えるといいな。じゃあな」
俺はヒヨリを背にして歩き始めた。今晩どうするかなぁ、宿か何かないかなぁ、なんて考えながら。
「待って!」
後ろから声が聞こえる。振り向くとヒヨリが小走りで近づいてきて、
「えっと……その、今晩宿無いでしょ? 私の借りている部屋の隣空いているから、大家さんに頼んだら泊めてもらえるかもしれないの。だから……一緒に来る?」
「いいのか?」
「まだ泊まれるか分からないけど多分大丈夫だと思う……どうかな?」
「じゃあお言葉に甘えさせていただきますか!」
上目遣いで懇願するヒヨリをめちゃめちゃ可愛いと思ってしまった。
「うん!」
ヒヨリの恥ずかしながらも無邪気な笑顔。
その笑顔は微かに照れているようにも見えたが、それは俺の勘違いで、ただ暮れていく夕日で染められていただけなのかもしれない。
彩る君に恋をした。 椎名 椋鳥 @mucmuc27
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