タマゴ取ったった!
グァラスの卵を獲得してから帰路につき、卵を割らないようにゆっくりと歩く。
途中で何度か虫型やトカゲ型のモンスターに遭遇したけど、無事にスタート地点まで戻ってこられた。
羽二重さんが先にギルドへ入り、俺はそれを追ってギルドに入る。
「おぉ! 帰ってきたか!」
「お疲れ様」
ギルドに着くと関所のおじさん達が迎えてくれた。
「ただいま帰りました」
「ただいま帰りました」
「二人とも怪我はないかい?」
「はい、二人とも大丈夫です」
挨拶をすると標準体型のおじさんが気遣いの言葉を掛けてくれたので羽二重さんが応じた。
「そっか。じゃあ次も気を付けてね」
「「はい」」
「収穫はあったか?」
ガタイのいいおじさんは羽二重さんが袋を持っているのに気がついたようで、今日の成果を聞いてきた。
「グァラスの卵が取れました!」
おじさんの質問に羽二重さんが謎のテンションで答える。
帰ってくるときに頑張って虫とかも捕まえてきたんだけど……。
ダンジョンの中でもそうだったけど、羽二重さんはグァラスの卵のことになると様子がおかしくなる気がする。
……もしかして卵を取ってすぐに引き返したのもそれが関係してたりするのかな?
「おぉ! やったじゃねーか!」
「はい! やったりました!」
「よかったね」
「はい!」
「割らねーように気をつけてな!」
「はい!」
二人に見送られて俺達は関所を通る。
帰りは認定証を見せる必要がないので素通りだ。
関所を抜けると、まずはダンジョンで得たものを売却しにいく。
武器を先に返却してもいいんだけど、返却するときに色々と面倒な検査を受けなければならないし、モンスターが入ってきたときに対処できなくなってしまうので先に換金を行う。
「オノは売りたくないものとかある?」
「グァラスの卵は食べてみたいかな」
「わかった。じゃあそれ以外は売っちゃうね」
「うん」
換金所に行き拾ってきた謎の石や捕まえたモンスターなどを入れた袋を受付の女性に渡す。
「精算いたしますので少々お待ちください」
「わかりました」
量が少ないので移動せずに受付の前で精算が終わるのを待つ。
暇だから羽二重さんに金額の予想を聞いてみようかな。
「いくらになると思う?」
「うーん……五千円くらいかな?」
「結構いくね」
ほとんど虫と石だったと思うけど。
「うん。最後に取った虫がそれなりに高く売れると思うんだよね」
「【カクレミノカブト】ってやつ?」
「そうそう。私も実物を見るのは今日が初めてだから、たぶん結構珍しいんじゃないかな?」
カクレミノカブトは帰りに入り口付近でたまたま捕まえたモンスターだ。
見た目は背中側の角が三本に増えた普通のカブトムシで、基本的には木の上のほうで擬態をしてるから見つからないモンスターなのだとか。
「でもあれってどこをどう使うの?」
モンスターだからこっちに連れてきたら動かなくなっちゃうし、価値がなさそう。食べるのかな?
「んー……、なにかの研究とか?」
「なにかとは?」
「色が変わるメカニズムとかが地球の生物と違ったりするかもしれない」
「精算が終了いたしました」
羽二重さんと話していると、受付の女性が戻ってきた。
「あ、来たみたいだね」
「うん」
「お待たせいたしました。合計で三千四百七十八円になります。こちらの書類にサインをしていただきますと取引が成立いたします。取引が成立いたしますと返品および返金には一切応じられませんので、その点をご了承いただけましたらサインをお願いいたします」
「いいよね?」
「うん」
羽二重さんがサインをしてお金と内訳が書かれた紙を受け取る。
「じゃあ次は武器を預けに行こうか」
「うん」
武器を受け取った場所へ行き、武器をはずして受付の人に渡す。
武器を預けたあとはゲート型の金属探知機を通って銃や弾丸を隠し持っていないか検査し、そこをクリアすると個室に入ってボディチェックと手荷物検査を受ける。
個室は男女で別れており、検査を行う人もそれぞれの性別と同性の人が行う。
そこでの検査でも問題ないことが確認された俺は、免許証を返してもらい個室を出た。
俺が個室を出ると、丁度羽二重も個室から出てくるところだった。
「どう? 大丈夫だった?」
「うん。大丈夫だった」
羽二重さんに結果を聞かれたので素直に答える。
「なにか買うものとかある?」
「特にないよ」
「そう? じゃあ帰ろっか」
「うん」
ギルドを出て会社に向けて歩を進める。
ふぅ、疲れた。
一昨日までニートをやってた俺にはハードすぎたね。探索初日から命懸けだったし。
明日も仕事か……。
「今日はどうだった?」
疲れて黙って歩いていると羽二重さんが沈黙を破り話し始めた。
「非常に疲れました」
「明日も出勤?」
「うん、羽二重さんは?」
「私も出勤だよ」
「明日も二人かな?」
できれば一人でマイペースに進みたいところです。
「どうだろう? オジサン次第じゃないかな?」
「どうなると思う?」
「私は最初から一人だったんだし、オノも一人になるんじゃないかな?」
そうだといいなぁ。
今日は疲れたから明日は小型のモンスターをいっぱい捕まえてチマチマと稼ぎたい。
「あ、そういえばさ、その呼び方は戻さないの?」
「ん? 戻したほうがいい?」
「いや、そのままでも大丈夫だけど。ただ、あだ名だと距離感がわからなくなりそうで怖いなぁって思わなくもない」
「たった二人の従業員なんだし仲良くしようよ」
「うん、仲良くするのは問題ないんだけどさ。異性の友達なんてできたことがないもんで、接し方がよくわからないんだよね」
「私も異性の友達なんていたことないから大丈夫だよ」
なにが大丈夫なのか全然わからないけど、羽二重さんも条件は同じってことかな?
「距離感がおかしかったらオブラートに包んで教えてね?」
「うん。じゃあオノも、私の距離感が変だなって思ったら絹に包んで教えてね」
「うん」
俺はなんて呼んだらいいんだろう?
「俺もコマって呼んだ方がいい?」
羽二重さんがあだ名で呼んでくれてるのに俺が敬称付きで呼んでたらおかしいと思うんだけど。
「うん。そのほうが仲良くなれそうだし、お互いにあだ名で呼び合おうか」
「わかった」
そんな会話をしてから少し歩き、会社に着いた。
「おぉ! お帰り!」
会社に到着し、コマがインターホンを押そうとすると社長が出迎えてくれた。
「ただいま」
「ただいま戻りました」
俺達はそのまま社長に引き連れられて社長の部屋に行く。
「どうだ? 収穫はあったか?」
「それ聞いちゃう?」
あ、コマがまたおかしな人になってる。
「お、その様子だとなんかあったんだな?」
「なんと! 我々は! グァラスの卵をっ! 入手いたしましたっ!」
テンション高いなぁ。
「よっ! 流石は小鞠さん! 日本一!」
「しかも! その数なんと、十一個!」
あ、そんなに取れてたんだ。
一個千円だって言ってたから、全部で一万千円か。
二人で割ると一人五千五百円で、他のを売った金額を合わせると七千円くらいかな?
思ったより稼げてるね。
「よっ! この卵泥棒!」
「教官! 今回は共犯者がおります!」
おいおい。卵泥棒の共犯者って誰だよ。そいつ最低だな。
「ここにいるオノであります!」
「貴様か! よくやった!」
おれかー。
「ありがたき幸せ!」
「おいおい。そこは斧之柄君が止めてくれないと」
「いや、俺には荷が重いです」
入って二日の新米があのノリにツッコミを入れるのは難しいってもんです。
「というか、なんでそんなにおかしなテンションなんですか?」
「ん? 小鞠から聞いてないのか?」
「一個千円で売れるって話ですか?」
そこまで喜ぶことかな?
「それはギルドで買い取ってもらうときの値段だな」
ギルドは地産地消を推奨していて、買い取り価格が周辺にある商店よりもだいぶ低めに設定されている。
その代わり買取数に上限がないし、ダンジョン由来のものなら砂とかでもない限り大抵買い取ってもらえる。
「ギルド以外ではどのくらいなんですか?」
「今の相場は三千円くらいじゃないか?」
「え?」
卵一個で三千円?
「時期とか土地によっても違うからなんとも言えないが、この辺だとそのくらいの値段で買い取ってくれるな」
「マジですか?」
「マジだぞ」
コマが話に入ってきて言った。
「販売価格の相場じゃなくて?」
「うん」
「買取価格の相場が三千円?」
「この価値を理解したかね?」
買取価格が三千円ってことは、店で買おうと思ったら四千円くらいするんじゃないの?
卵が一個四千円?
四個入りのパックを買おうと思ったら一万六千円?
え、ヤバない?
「なんでそんなに高いの?」
割と簡単に取れたけど。
「まず美味しい」
「うん」
「そしておいしい」
「うん」
「そのうえオイシイ」
「うん」
全部一緒だね。
「いつ売りに行くの?」
「行かないよ? アホなの?」
「え?」
今アホって言った?
「命を掛けて取った卵だろ!? 食えよ! そして貴様の命に! 血肉に! 細胞に! 換えてみせるのがやつへの礼儀ってものだろうがよっ!」
「……社長、助けてください」
この人面倒くさいです。
「これが俺にも止められないんだわ」
マジか。
「会社的に、卵は売らなくても大丈夫なんですか?」
「二層に行けるようになれば金には困らんだろうから好きにしていいぞ」
「なら俺は卵かけご飯にしたいです」
一杯三千円を超える卵かけご飯……。明日の朝はこれで決まりだね。
「うむ。では君にはこれをあげよう」
コマから卵を一つ受け取る。
「一つだけ?」
社長にも渡すとして、少なくとも三個はもらえるはずなんだけど。
「残りは私がお菓子作りで使います!」
「あと二個ちょうだい」
「アタイが作った菓子なんか食えねぇってことかい?」
「あ、俺にもくれるの?」
「当然よ。今回の功労者に食べさせてあげないなんて意味がわからないわ」
コマのキャラのブレ方が半端ない。
「じゃあこれだけでいいや。楽しみにしてるね」
「そう? 頑張って作るけど、まずかったら承知しないよ?」
あの卵ってヤバい物質とか出してないよね? もう何言ってるのかわからないんだけど。
「よし! じゃあ二人ともまた明日な!」
「はい」
「うん」
俺達は社長の家を出る。
「じゃあ、また明日」
「……うん。また明日」
コマの顔が少し赤みを帯びて見えたのは夕日のせいだろうか?
もしかして、本人的にもあの状態は好ましくなかったのだろうか?。
「さて、帰りますか」
コマの背中を見送ったあと、隣にある自宅に帰った。
ニートだった俺が新米冒険者になってダンジョン探索をしてみた @_sai_
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