インド映画のダンスを表現してみる
結葉 天樹
太陽と月は出会いて踊る
どこからともなく陽気なリズムが流れて来る。
鳥は羽を休め、牛は道で膝を折る。
いがみ合っていた男たちは争いを止めてその音の元へ目を向けた。
清掃の仕事をしている男が手にしたモップを床に打ち付け、柄を右へ左へ持ち替えては、そばのドラム缶を叩く。
その見事なモップ捌きに男たちの目はくぎ付けだ。
男は不敵な笑みを浮かべると一際大きくモップを振り回し、床へ叩きつける。
「喧嘩は野暮だ、笑顔を見せよう」
彼はラヴィ。その名は太陽を意味する。
「さあ、隣の人と手を繋ごう」
ラヴィが男たちを伴って往来へ出る。そこでは彼の多くの友が出迎えた。
「ほら、こんなにも楽しくなれる」
友たちが手を叩き合う。それは次第に拍を刻み始め、その輪が次第に広がって行く。
女たちは作業の手を止め、男たちは商売を止める。
老いも若きも一緒になって広場へと集っていく。
「さあ笑おう。悲しさを忘れて幸せを求めよう」
手を引いて、手を離して、前へ後ろへ右へ左へ人の波の中をラヴィが泳ぐ。
彼と触れ合えば誰もが笑顔に。
彼と踊れば誰もが幸福に。
人も獣も神も悪魔でさえも。彼といれば悲しいことが気にならなくなるだろう。
「幸福を求めれば愛を得られるわ」
ラヴィの手を取った女。
彼女はチャンドラ。月を意味する名前。
「君の愛が得られれば僕は幸せになれる」
「あなたが幸せを得たのは私が愛を得た証」
「どれだけ僕が傷ついても」
「私の笑顔が私を癒す」
「もしも涙が流れても」
「私の笑顔が涙を止める」
それこそが幸せへ繋がる懸け橋。
怒りも、哀しみも、互いがいれば乗り越えられる。
「さあ、この笑顔を皆に広めよう」
「さあ、この愛を皆に広めましょう」
いつしか二人を中心に、色とりどりの花が舞う。
白い雲から太陽が顔をのぞかせ、世界に光が満ちて行く。
「月のように美しい君よ」
「太陽のように輝くあなた」
その歌は天高く。神の御座所へ届くだろう。
その踊りは、全ての人を幸せに導くだろう。
「笑っておくれ、僕の月」
「笑ってちょうだい、私の太陽」
風に乗って、雲よ運べ。
ゴーダーヴァリ川の流れに乗って、届けよ届け。
インド映画のダンスを表現してみる 結葉 天樹 @fujimiyaitsuki
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