君、我なる愛し子よ、吾なる主よ、永久に
洛華
生命の詩
聳え立つ幾つもの山々が天の海に浮かび、風に形を変える白雲が、さながら岸に打ち寄せる波のようであった。
ここは昆崙。
雌鳳山は桜楼洞である。
洞の入り口には、その名に違わず、桜の双樹が枝を伸ばしていた。
雪の如き純白と炎の如き紅緋。
二色の花弁が互いに絡み合いながら風に舞う中、滑らかな笛の音が、緩やかな調べを奏でている。
白樹の一枝にふわりと腰掛けて篠笛を吹いているのは、銀色の髪の少年であった。
齢十二・三。
長い髪を結い上げもせず、気の向くまま風に流している。
伏せた瞼に長い睫が物憂げに揺れ、奏でる音に潜む哀の色を濃くしていた。
どのくらいの間、そうしていただろうか。
一国の滅びと悲しい恋の結末を歌う古曲が、その余韻を風に溶かして終わりを迎えると、少年は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
金色の瞳が、陽光を弾いて輝く。
「…………」
流れる雲の行く手を見つめ、しばし。
「……ああ……」
ぽつりと呟き、再び笛を口に当てる。
流れ始めた旋律に応えるように、双樹の枝が、大きく揺れた。
古の恋物語を歌う調べが風に消え、新たな物語が紡がれていく。
「……ああ……」
少年の呟きをかき消して、桃の香りがふわりと漂う。
甘露の酒を傾けながら、娘は、風に流れる笛の音を聞いていた。
年の頃は十七、八といったところか。
燈火のような煌めきをもつ髪と、血の色の瞳。
右には朱塗りの杯を、左には薄紅色の扇を手にしている。
扇の閃きは風を生み、二色の花を踊らせる。
緩やかに、時間が過ぎていく。
やがて笛の奏でる最後の音がその余韻まで消え去ると、娘もまた扇を操る手を止めて、空に揺れる少年のつま先をみあげる。
娘の視線に気づいた少年は、ふわりとした笑みを浮かべた。
手を、差し伸べる。
娘もまた微笑みを返し、それから、少年の手を取った。
途端、勢いを増した花吹雪がすべてを覆い尽くし……、
歴史の片隅で、小さな命が、産声をあげた。
君、我なる愛し子よ、吾なる主よ、永久に 洛華 @racka
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