第10話 友情の解答

 僕は声をふりしぼった。

 「マリー!僕を信じて!!!」

 「ウェイダー!逃げて!」

 目を覚ましたとたん、マリーは涙をこぼして僕に伝える!!

 「大丈夫!絶対大丈夫だから!」

 「ごめんなさい。わたし、私……また、大好きな人を……」

 「マリー、安心して」

 「え!?」

 「僕も、孤児だった……から、わかるよ。ひとりは、さびしいって」

 「!」

 「ひとりは、つめたいって。お母さん、おとうさん、や、やきゅうのにいちゃん、ちゃ、ぱつの姉ちゃん、いろいろ、であったけど、やっぱ、いちばん……」

 「しっかり!しっかりしなさい!ウェイダー!」

 プゥラスカーは、気休めにしかならないとか、なんとか言いながら、ありったけの魔法の液体を僕にぶっかける。

 「!ねぇ、まりー、でも僕は、きみと友達になれたのが、いちばんうれしかったんだよ。マリー、僕のあたたかい……この、気持ち、わけてあげるよ」

 「!」

 「プゥラスカー、はやくじゅもんを!」

 「!!いいの!?」

 「大切な物って、きっとマリーだとおもうけど……」

 「っ!?……それもあるが……もっと、とてつもない物をもらっていくそうよ」

 「え?」

 プゥラスカーは、まるで誰かがそう言っている……そのような口調だった……。

 「マリーの孤独を埋めてるなら、精霊は、貴方の孤独を欲している」

 「?!僕の?孤独?」

 「おおよそ……精霊を殺すか、何らかの異国渡りの術を持つ魔女か、貴方自身が、仙人とならない限り、二度と、故郷へは帰れないかもしれない」

 「そっか。なら、大丈夫」

 「!?」

 「マリー……一緒に、いてくれる?」

 「!!え!?」

 「僕は、マリーがいてくれれば、もう、なにもこわくないよ。僕たち二人がタッグを組めば、どんな敵だって一撃必殺だよね!」

 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 マリーは、その一言を聞いて、僕に近寄って、ただ、僕を抱きしめた。

 「!マリーって、意外とあったかいね」

 「え!?」 

 「だって、冬っていう季節みたいに、きれいだから……」

 「うん。ありがとう。ありがとう。ウェイダー」

 「ウェイダー。契約をしてもいいのかしら?」

 「いいよ。でも、最後に一つだけ頼みがある」

 「早くいいなさい!」

 「お父さんと、お母さんと、みんなにありがとう。僕は友達と元気に旅に出ますってつたえて。いつか、きっと遊びに来ますって」

 「分かったわ……それくらいなら、契約抜きで、『人』としてやってあげる!」

 「え!?」

 プゥラスカーは僕の左手の甲を、刃物で浅く傷つけ、血を啜った。

 「プゥラスカー!」

 「契約完了!さぁ!ここからが本番よ!」

 僕の血を吸ったとたん、プゥラスカーは驚くほど若返った!!

 「ウェイダー!幸運な事に、一つだけ、貴方は私と契約をしたので、魔法を今、使えるわ!これは、古い魔女と契約をした人間の特権よ!よく考えて言いなさい!」

 「どうか、僕の孤独の対価で、マリーを取らないでください」

 「とんでもない事を言う子!精霊のヤツ、高笑いしてるわ!」

 「え?」

 「オーケー!任せなさい!!!!プロ根性、見せてあげるわ!契約者・魔女共に、契約の行使を行う」

 「!」

 すると、雪が吹き荒れ、高原は一瞬で白く染まった。

 

 *


 静まり返った雪原。

 精霊は僕を見て微笑む。

 「人類を半殺しにしてきた……そのかいがあったものだ!」

 その人は、まるでマリーとは違うタイプの女性だった。

 細い目でいつも微笑むような印象があり、とても美しく、誰が見ても、高貴な女性をイメージするような姿だった。

 「たとえ孤独の対象が贄からお前自身のソレになったとはいえ、孤独の軽減に魔法を使うなどと……両替の魔女くらいでしか、そのような離れ業できんよ!!贄の契りを破棄した代償……あの魔法使いに感謝するのだな!」

 なんだかよくわからない事を精霊は言っていた。

 「それと少年、両替の魔法は、他の魔法と比べものにならぬ程強いという事を覚えておくとよい。なぁに、人生に役立つぞ!」

 「そ、そうなんだ」

 「精霊を屈服させた人間の第一声は、そうなんだ……とは、間抜けを通し越して、愛しいなぁ。私からも一つ、ギフトをくれてやろう」

 精霊の微笑みは、まるで冬という季節が微笑むとこうなるのか……というような微笑みだった……。

 艶やかで妖しい微笑みが、僕の内臓を冷やして熱を奪った。

 「また会おう少年。いつの日か、今度は私の雪原へ招待できる事を楽しみしているよ」

 突風が吹き、雪の結晶が彼女を抱いて大空へと飛ぶ様を、僕はしっかりと見届ける……。

 僕にだけはスーパースローに見えているのかもしれない。

 彼女が微笑んで、僕の頬に口づけした後、とてもうれしそうに、風と共に舞い上がって行った。

 「礼を言うぞ、少年」

 大気の香りが、一瞬だけ冬を運んだ……………。


 ***


 僕は、三日月が傾いた空が見える草原で倒れていた。

 朝がやってくる事がわかった……。

 東の空が明るくて……僕は、髪の色を取り戻したマリーに膝枕してもらったようだった……。

 なんだか、どこかで理解しているのだと思う。

 「ぽっかりと、抜かれた何かが……あるんだね」

 僕は、ただ、涙をながしたが……。

 「ウェイダー!」

 「!」

 「ありがとう!大好き!!本当に、本当にありがとう」

 少女に抱かれ、僕は安堵して…………そのままゆっくりと力が抜けてしまった。

 この夏一番の安心感と、達成感を感じて、すぐそこに遊びに来た秋を感じながら、僕は少しばかり、疲れてしまっていた。

 「大好きだよ!ウェイダー!!!」

 「はは、ねぇ、マリー、マリーってやっぱりあったかいね」

 「!!」

 「マリーがそばにいてくれるだけで、僕はもうなんでもいいや」

 「うん。だいすきだよ!ウェイダー」

 「!!」

 あぁ……。

 別にムキになる必要なんてなかったんだなぁ。

 僕は、僕の幼さが、なんとなく馬鹿らしく思えて、つい、笑えてしまって……。

 「ふふ」

 「!」

 つられて笑ったマリーを見て、幸せを感じて……もうそのまま、お休みしようと思うのだった……。

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summer friend @ronn

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