バカな座敷わらしとの日々は大変です
中田 乾
第1話 「日常」
「だからお前は何で無駄に力を使うんだよ!!」
何回この言葉を言ったのか分からない、こいつには頭を悩まされすぎて頭痛薬を飲むよりこいつを消した方がスッキリすると思う。
本気でそう思う。
「だって、だって、いっぱいある方が良いと思って〜」
と情けない声で叫ぶ。
「誰がこんなにトイレットペーパー使うんだよ!
どんだけ下痢なんだよ!一年かかっても使いきれないよ!」
「私は優しさのつもりやったんですよ?
何でそんなに怒るんですか?」
「お前は優しさを履き違えてるんだよ!」
「君だけだよ?私がこんなに優しくするのは」
「その優しさを少しは地球に分けてあげて!
エコってネットで調べて!ブックマークしといて!」
床一面に敷き詰められたトイレットペーパーの海の上で言い訳を必死に考える少女。
こいつは
初めて会ったのは3ヶ月前、会社の転勤で新しい住居を探していた。
そこで安い物件を探していたらこのアパートにたどり着いた。
霊などの非科学的な事は信じていない。
そんな俺がいわく付き物件に住むことに不満など感じるはずもなく、座敷わらしとの生活が始まったのだ。
座敷わらしは見たものに幸福を与えると言われている。
実際こいつにもその力はあるようだ。
しかしこいつの力の使い方を間違えている。
要するにKYなのだ。
初めて会ったのは引越しして2日目の荷ほどきをしている時だ。
荷物の多さに苦労していた時、後ろから急に肩を叩いてきた。
思わず飛び上がると後ろに笑っている小さな女の子がいる。
すると屈託のない笑顔で俺に話しかける。
「何か手伝おうか?」
いやその前にお前誰だよ!
と思わずツッコミを入れてしまったが、少女は物怖じ一つせず、
「私は座敷わらし、よろしくね」
と自己紹介をした。
なかなかの図太い神経を持っているようだ、少女は俺に気にする事なく話を続けた。
「大変そうだから手伝うよー」
「いやいや大丈夫だから勝手に触るなよ」
「いやいや大丈夫ですよ〜だから勝手に触るね」
「どんな理屈!?大丈夫だから、俺1人でやれるから」
そんな俺の言葉を聞かず、座敷わらしは皿の入ったダンボール箱を手にした。
結構重いはずだが腕一本で持ち上げた。
おお‥
ちょっと強気に喋っていたけど少しだけ口調を優しくしよう。うん、そうしよう。
そして座敷わらしはそのまま箱を持ち上げてゆっくりと歩いていく。
あれ‥?
あいつ‥あの箱どうするつもりなんだ‥?
そう疑問に思うのが遅かった。座敷わらしは箱を持ち、家の扉を開け、二階からゴミ捨て場の方にメジャーリーガー並みのダイナミックなフォームで箱を投げた。
「おおぉぅいいいいぃぃぃ!!!」
俺の悲痛な叫びが新居に響き渡る。
箱はドラム型洗濯機に回されるタオルのように綺麗なスピンでゴミ捨て場に衝突した。
「何してんのぉ!?あれ必要な物が入ってんだけどぉ!」
「えっ、そんなこと聞いてないですよ?」
「そりゃ言ってないからね!まさか何も言ってないのに箱ぶん投げられるなんて思ってなかったからね!」
「そこまで力入れてないからもしかしたら中身は無事かもしれないですよ」
「無事なわけないだろうが!トラックにはねられた方が生存確率高いわ!」
「まぁ今度から気をつけてくださいね」
「お前が気をつけろ!」
箱の中の皿は粉々になっているだろう。
それほどの威力だ。
身長140ぐらいの華奢な女の子とは思えない力だ。
これが妖怪の力か‥
とりあえず粗相のないようにしよう。
そう心に誓った。
がしかし、座敷わらしはそのまま別の皿の箱を持ち上げようとする。
「ちょっと待てぇぇぇ!ストップ!please stop!」
「どうしたんですか?急に慌てて」
「一回その箱から手を離せ、落ち着こう」
「分かりました」
座敷わらしはそのまま箱から手を離した。
パリンッ
数少ない皿が全滅した。
「そっと下ろせぇぇぇ!!また皿が割れたよ!?」
「えっ?だって手を離せって言ったから」
「人の荷物運ぶ時は優しく扱って!日本の伝統的な奥ゆかしさを無くさないで!」
「言い方が悪かったですね。ドンマイ」
「何で俺が悪いみたいになってるの!?何で俺のミスみたいになってるの!?」
「じゃあこの箱もゴミ捨て場に置いてきますね。」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
その日のことはもう思い出したくない。
しばらく夢でうなされていた。
それからも座敷わらしは不思議な力で俺の平穏な日常を壊していった。
そして今日、座敷わらしはスーパーに出かけた。
その結果ご覧の有様だ。
トイレットペーパーの山が家に大量発生している。
しかしこいつ今日は何の力を使ったんだ?
座敷わらしには不思議な力がいくつもある。
何個あるかは知らないが俺が知っているのは3つほどだ。
腕力が上がる代わりに明日強烈な筋肉痛になる力と、人の考えることが分かる代わりに自分の大切にしている物が一つ爆発する力、幸運を与えるが本人にとってはそこまで嬉しくない出来事となる力。
他にも能力はあるらしいが正直どれも使えないのであまり期待していない。
そして今日はおそらくこの3つ以外の力を使ったのだろう。
またロクでもない能力だろう‥
俺は座敷わらしに今日は何の能力使ったんだと優しい声で吐き捨てるように問いかけた。
「特にいらない物を90%引きで買える能力です」
そうかそれならまだマシな‥
待てよ‥
買える‥?
最後の述語が俺の危機察知レーダーに引っかかる。
「買えるってまさかお前‥」
「はい!全部で12万円のトイレットペーパーが1万2000円です!」
「やっぱりお前の能力ろくでもねぇぇぇ!!」
心の底からそう思う。
「今すぐ返してこい!そしてもう帰ってくるなぁ!」
「嫌ですよ!この子達を返すなんて、お金はまた稼げばいいじゃないですか」
「どこに母性目覚めてんだぁ!クーリング・オフして金に戻してこい!」
「何でもクーリング・オフできる世の中って何だか悲しくないですか?」
「お前の頭が悪い方が悲しいわ!」
とりあえずトイレットペーパーを全て返しに行かせて、部屋の掃除をする。
疲れた‥
あいつの摩訶不思議な能力とバカな考えは恐いが、
それよりもあいつの能力に振り回される事に慣れている自分がいるのが何より恐ろしい。
あいつをどうにかしてここから追い出そう。
そう考えていると、あいつはすぐに戻ってきた。
「大変だよ!」
「どうした?」
「花梨ちゃんが変な男たちに絡まれてるよ!」
「何だと!?」
俺の新しい住居の家事をするために一緒に転勤先まで来てくれた可愛い妹だ。
そんな可愛い妹に不埒な悪行三昧をする男たちがいるだと‥?(主人公は我を見失っております)
すぐに俺は座敷わらしを連れ、家を飛び出した。
「そのクソガキ共はどこにいる!?」
「近くの空き地にいたよ」
よくも俺の可愛い妹に手を出そうとしたなぁ‥
生きてお天道様の下歩けると思うなよ‥?
(主人公は我を見失っておりますpart2)
俺は風を置き去りにするスピードで空き地まで駆け抜けた。
空き地に辿り着くと、そこには花梨をいかにも性格の悪そうな顔をした男子高校生5人が囲んでいた。
(主人公の個人的な見解です)
眩い光を放つ天使(花梨)にドブのような香りを放つ醜悪な顔面を持つハエがたかるのを俺が駆除しないとな‥
(主人公は我を見失っておりますpart3)
「おい、てめぇらぁ!人の妹を囲んで何してんだぁ!」
大きな声で威嚇する。すると奥の方で花梨が驚いた顔で
「お兄ちゃん!?何してるのこんなとこで」
俺は花梨を取り巻く男達にメンチを切る。
「花梨!今助けるぞー!」
「ちょっと待ってお兄ちゃん!この人達はただの友達で‥」
「いくぞ!座敷わらし!お前の能力を俺にかけろ!」
座敷わらしは自分はもちろん他の人にも能力をかけることができる。
「了解!いくよ〜」
座敷わらしの手から青い不思議なオーラが自分を纏っていく。
そして少しずつ体の中に入っていく。
少しずつ体温が上がる、そして完全に取り込むと能力が自動的に発動される。
よしっ!これであいつらをボコボコに‥
と息巻いている自分の頭の上からカラスが糞を落とす。
ベチャッ
髪の毛にクリーンヒットした。
まさか‥
「おい‥俺にかけた能力は何だ‥?」
「幸福が起こるけど、あんまし嬉しくない幸運な起こる能力」
「これのどこが幸運だぁぁぁ!!一つも良くねぇじゃねぇかぁぁ!!」
「頭に鳥の糞が落ちるのは幸福の前兆なんだよ?
ラッキーだね」
「ラッキーだね、じゃねぇぇぇぇ!!」
頭が怒りで満たされていく。
しかしこうしている間にも男達に囲まれている花梨が怯えている。
すぐに助けてやらねば!
(もちろん花梨は主人公に怯えております)
座敷わらしはすぐに違う色のオーラを放つ。
今度は紫色だ。
もう一度同じように体に取り込み能力を発動する。
(花梨のお兄さん超恐えぇ‥)
と頭の中に声が流れる。
すると遠くで爆発音が聞こえた。
音の鳴った方を確認すると家の方角からだった、
まさか‥
「座敷わらし‥今かけた能力は‥?」
「人の考えが分かる代わりに大切な物が爆発する能力☆」
「お前はバカかぁぁぁ!!!」
怒声が町内に響き渡る。
「今のタイミングでそれが必要だとおもうかぁ!?」
「ちゃんと下心あるか確認してから成敗しないといけないでしょ?」
「大人数で花梨を囲んでる時点でOUTだよ!死刑確定だわ!」
(主人公は暴走しております)
「まぁでも一応確認したよかっだと思うよ?
だってほら」
と座敷わらしは1人の取り巻きの男を指差した。
試しに心を読んでみる。
(怯える花梨ちゃん、超可愛い‥)
よし殺す。
決定だ。
金剛力士像みたいな顔から一変して爽やかな笑顔で取り巻きの男達に近づく。
座敷わらしは赤色のオーラを俺に纏わせた。
筋力が増幅する。力が湧き出る。
明日の筋肉痛など糞食らえだ。
俺は華麗なステップで円を描きながら左ジャブを5人の顔にヒットさせる。
弾幕のような左が男達を襲う。
鋭い左が1人の男のアゴを揺らしKOした。
1人がしびれを切らして円の外へと逃げようとするのですぐさまワンツーパンチを顔面にねじ込む。
流れるようなコンビネーションをくらい男は気絶する。
そして1人の男は無謀にもカウンターを仕掛けようとした。
甘い!
男の右ストレートをかわし俺の左ボディーが脇腹に突き刺さる。
男は前のめりに倒れる。
そして残りの2人は一斉に逃げようとしたため、渾身のリバーブローを一発ずつねじ込んだ。
これでもう花梨に変な気を起こさないだろう。
いや念のためにもう少し‥
すると後ろから花梨が俺の頭を叩く。
「お兄ちゃんの馬鹿!」
「いや花梨、俺はお前のため思って‥」
「やり過ぎだよ!明日から学校でどうやって接したらいいか分からないじゃん!」
「こんな奴らと接する必要はない!」
「何でお兄ちゃんにそんな事言われないといけないの!?」
「お前のお兄ちゃんだからだ!」
「お兄ちゃんの馬鹿!」
「まぁ2人とも落ち着いて」
座敷わらしが間に入ってきた。
「2人とも兄妹なのですから、本当は2人ともお互いのことを大切に思ってるんでしょ?だったら
仲良くしましょうよ」
そう言われたら確かにそうだが‥
何だか馬鹿に諭されるのは癪だ。
「そうだね‥お兄ちゃんごめんねキツく言っちゃって」
花梨が素直に謝っている!
驚いたがせっかくの仲直りのチャンスを棒に振るのはもったいない。
「いやお兄ちゃんもやり過ぎたよ、ごめんな」
「じゃあ仲直りもしましたので仲良く3人で帰りましょうか」
こうして俺は平穏な日常ではなく、このような破茶滅茶な日常を送っている。
だけどこれはこれで楽しいからアリだな‥
そう思いかけた時。
あれ‥
なんか忘れてないか‥
俺はこの時忘れていたのだ、あのアホの能力の副作用を。
けたたましく轟くサイレンの音、消防車が何台も走り去る。
方角はうちの家だ。
まさか‥
俺は家に向かい全力で走る、そして辿り着くと
そこには燃えている自分の家があった。
心を読む能力で大切な物が爆発した時に散った火花が引火したらしい。
「おい‥座敷わらし‥?」
振り向くと座敷わらしは後ろで息を潜めて逃げようとしていた。
絶対にこいつを許さない。
足をフル回転させ、座敷わらしを追う。
座敷わらしも本気で逃げる。
「逃すかぁ!!!」
静かな夕暮れの町で騒がしい2人は夕陽の影に消えていった。
バカな座敷わらしとの日々は大変です 中田 乾 @J0422
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます