第39話00100111 「ゼロ」と「イチ 

 臨場班の刑事たちは黒木エリカが在学していた大学へも足を延ばしていた。

 各々おのおので生徒たちに簡単な事情聴取をするが特段変わったことはなかった。


 ――学内 遺伝子工学の講義。


「人間の遺伝子は螺旋状をしています。つまり《PIRALパイラルです。たとえば受け継ぐ遺伝子でも【子どもを捨てる親】【親とは真逆に攻撃的な子ども】【親とそっくりな子ども】などさまざまです。……これも人間の神秘ですね。また人、正式には“動物界脊椎動物門哺乳綱霊長目真猿亜目ヒト科ヒト属ヒト”は有史以来ずっと争いを繰り返してきました。それはいまだにつづく《サークル》といえます。これは予測になりますが、有史以前も同等に――」


 つまらさなそうに講義を聞く生徒はまぶたを半分落としながらノートをとっていた。

 ぐしゃぐしゃとした走り書きの下に、


 螺旋、遺伝子、繰り返し 

 《S》・《サークル》


 と書いてあった。


 「おい……『S・サークル』ってなんだ?」


 「えっ、『S・サークル』……いや、なんか寝ぼけて書いてたわ。遺伝の繰り返えす螺旋が『S・サークル』って先生いってなかった?」


 「いってないし。意味がわからないし」


 ――学内 数学の講義。


 「え~すこし話は逸れますが、無数にある数字のなかで“0”と“1”は素数ではない特別なふたつです。哲学者なら“0”と“1”を恋人同士とたとえるかもしれませね……――今日、現在のデジタルコンピュータはすべて“0”と“1”の二進法を応用し――たとえば、デジタル信号を使用すれば人間の声・・・・の模倣もできます――」



 講義を終えた初老の数学講師はロビーの長椅子でカップコーヒー片手にくつろいでいた。

 最近は自動販売機のホットコーヒーでも味が良くチェーン店との差もあまりない。

 

 ふ~ふ~。と息を吹きかる。


 ずずず。頬を緩めてすこしずつ啜っていく。

 大学の事務員が丸めた紙を片手に数学講師の元へ忍び足で擦り寄ってきた。

 事務員は座っている数学講師と話しやすい位置まで腰を屈め、見上げるようにして声をかけた。


 「先生。お忙しいところ申し訳ありません」


 「なにかね……?」


 「……例のソフトを購入することになりましたのでぜひ運用のほうをお願いできなかと思いまして。もちろん、そちらの手当は別途支給ですのでご安心を」


 申し訳なさそうに事務員は頭を下げた。


 「校内防犯用ソフト『ガーディアン』だったかね?」


 「はい、そうです」


 「わかりました。お引き受けいたしましょう。ですが、あのソフトは玄人用で扱いが難しいのでは?」


 「そうなんですけれど。先生のスキルがあれば大丈夫だと思います。それになぜかすべての公立小中高が導入を決定したそうなんですよ。なんでも夏までに全国で稼働させるそうです」


 事務員は通達されたばかりのFAX用紙を広げた。

 そこには神野の作った『ガーディアン』を全国の公立校で使用する旨が記されていた。

 運営母体としてはっきりと文科省の判があった。


 「そうですか~。使いやすいように改良でもしたのでしょうか?」


 「それが突然、文科省の推薦ソフトになったみたいで……そうなるとやっぱり改良されたのかもしれませんね?」


 「うむ。……ですがそんなソフトが必須な時代になってしまったんですね?」


 数学講師は悲愴な表情で肩を落とした。


――――――――――――

――――――

―――


 ――警視庁 証拠品保管庫。

 人気のない静かな部屋。

 

 たくさんの数字と記号が振られたスチール棚に過去の事件の押収物が静謐せいひつに置かれている。

 神野がアザミ高校で使っていた神野専用のPC類もビニールに包まれ保管されていた。


 バチン。金属に通電したような重い音が鳴ると突然HDDの内蔵電源がオンになった。

 非常時の内臓バッテリーランプが光っている。

 つづいて無線LANがネット回線に接続されたときに光るランプも点滅している。

 

 ――ウィーンというなにかの起動音のあとにギュイーンという内部ファンの回転音もする。

 すこし遅れてハーディスクも唸りを上げはじめた。

 OSが自動で動いて演算処理が行われているようだ。

 ジジジジ……ジジジジ……という機械音が断続的に聞こえる。


 ■10110101■11011010■11000000■11000001■11001010

 ■10111101■11011110■10101111■11000100

 ■10110010■10101111■10111100■10101110■11000000■11011110


 ■10110100■10110010■10110100■11011101■11000110

 ■11000011■11011110■11011101■11001001■10110011■11001001

 ■10110011■11010000■10100110

 ■10110101■11010110■10111010■11011110■10110011



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・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・


・・・ ・・・ ・・・ ・・・ コンパイル


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■■


(進捗状況 10%)


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■■■■


(進捗状況 20%)


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■■■■■■■■


(進捗状況 40%)


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■■■■■■■■■■■■


(進捗状況 60%)


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■■■■■■■■■■■■■■■■ 


(進捗状況 80%)


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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 


(進捗状況 100%)    完了


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オレタチ ハ ズット イッショダ

エイエンニ デンノウノ ウミ ヲ オヨゴウ


■00110101■00110010

■00110100■00110101

■00110100■00110010

■00110100■01000110

■00110100■01000110

■00110101■00110100



END

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「0」と「1」の連立方程"死期" ネームレス @xyz2

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