第3話

何匹も追いかけてくるシャドーを赤ずきんが討伐しながら、出口に向かう。

順調とまでは行かなかったが、一切怪我をせず、出口の近くまで来たところである事に気がついた。

「ねぇ、赤ずきん」

「どうしたの?アカツキ」

「おかしいとは思わない?」

「何が?」

僕は周りをぐるっと見渡した。明らかに不自然な事があった。

赤ずきんの魔法?の風によって、何度も壁や飾ってあった壺が壊れているのに、誰一人ともこちらに気づいていない…。いや、ここの家の者を一人も見ていない。

ものすごい爆風で壁などが破壊されたのだから、普通、音で気づくはずなのだが、屋敷からは人の声さえ聞こえない。

「あぁ。そういうことね…。まずは、ここを脱出してから教える!」

それだけ言うと、赤ずきんは、カーペットの敷かれた階段の手すりを滑るように降りる。それに続くように僕も滑り降りる。

「残り少し!」

出口が見え、数メートルの所(出口前)で一人の男が不気味な笑顔で立っていた。

「休むことは出来ましたか?旅の方」

青髪の青年は、僕たちに微笑みながら問いかけてくる。

しかし、僕たちには答えてる暇なんて、なかった。

「早く貴方も逃げましょう!シャドーがいるんです!」

僕はできる限りの声で叫んだが、青年の表情は変わらない。

青年の笑顔になにか不穏な空気を感じ、後ろに一歩下がる。それと同時に、後ろの階段からシャドーがたくさん落ちてくる。

「アカツキ!行こう!」

赤ずきんは、僕の手を引き、出口に向かって走る。

扉の前に着くと、僕は急いでドアを開けようとするが、開かない。

僕の背後では、赤ずきんが、迫り来るシャドーを風魔法で飛ばしている。

一方で、青髪の青年は、不気味な笑みを浮かべながら、赤ずきんの方を見ていた。

「あの!開けるの手伝ってください!」

青年に向かい叫ぶと、赤ずきんの顔色が変わっきた。

「駄目!」

その声が聞こえた時にはもう遅かった。

青年の体は見る見るうちに、ぼやけ始め、終いには、シャドーになってしまった。

「え?」

悲鳴にも聞こえる声を出した僕は、腰を抜かしてしまい。倒れてしまった。

「グシュシュシュ……」

嘲笑うかのような声を出す、青年改め、シャドーはこっちに尖った爪を向けてきた。

「く、来るな!来るな!来るな!来るな!!」

僕は、隣にあったツボの破片を持って、振り回す。が、そんな物は効くはずなく、へんなこえをだしながら、僕の元へ一歩一歩着実に歩んでくる。

「嫌だ…。死にたくない……。死にたくない……。」

呪文のように呟く。

そして、シャドーが僕の前に来ると、爪を天高く掲げた。

死を覚悟し、目を瞑った瞬間、猛烈な風が吹いた。

「アカツキ!こっちに手を!」

「う、うん!」

目をうっすらと開け、見えた赤ずきんの手を取り、立ち上がると赤ずきんは一気にドア蹴り飛ばした。小さな身体からは想像出来ないほどのパワーだった。

屋敷の外には、メイド服や、スーツがたくさん落ちてあった。

「アカツキ!走れる?」

「う、うん」

「なら、急ごう!」

「どこまで行くの!?」

「おばあちゃんの家まで!」

そう言うと、赤ずきんはポンチョの内ポケットから40cm程のナイフを取り出し、僕に渡してくる。

「これを持っていれば、小さなシャドーくらいなら相手できるはずだよ」

ナイフを受け取ると、僕は制服のポケットに入れる。

そんなやり取りをしてるうちに、村の出口に着いた。チラッと後ろを見てみると、まだシャドーは追いかけてきていた。

「アカツキ!でっかいヤツ打つから、飛ばされないようにね!」

「うん」

「《我、風の精霊と契約し者。我、すべてを無へと飛ばす者。すべての風に任せ、すべてを吹きとばせ!》」

詠唱が唱え終わると、赤ずきんの前から、強風が吹き荒れる。

風で吹き飛ばされそうになるが、何とか地面に這いつくばる。

「これ強すぎだろ!」

レンガの家のレンガさえ飛んでいくのが見えた。

「ほら!行こう!」

立ち上がり、また走り出す。

全力で。

それから、夜が開けるまで、僕たちは本気で走った。

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ディストラクション・フェアリーテイル 春巻 幸星 @Mikano0707

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