第9話 エピローグ

 長い時が過ぎた。

 僕は大学生になった。



 あれから一度も、異世界にはわたっていない。

 最後に交わした、ニチェとアーニャ、そしてババ様との言葉は、僕の胸の中にそっと締まっておこうと思う。



 桜の木は、まだ生きている。

 もうほとんど花を咲かせることはないけれど、それでもまだ、その根を深々と地に差し込んでいる。


 植物医師という職業を知ったのは、進路を決めるときになってのことだった。

 異世界に渡らなくなってから、またぼんやりと毎日を過ごしていた僕にとって、それは天啓の様だった。


 僕を救ってくれた桜の木に、今度は僕が恩返しをする。

 僕が傷つけた桜の木を、僕の手で癒す。


 それが、今の僕の夢だ。


 もう二度と会う事はないけれど。

 それでもやはり、思い出してしまう。

 時には涙を流してしまう。


 なぁ、ニチェ、アーニャ、ババ様。


 みんな元気にやってるか?


 応えはない。

 それでも僕は前を向く。

 この世界で、一つの夢に向かって歩き出していく。

 一歩ずつ。

 異世界には背中を向けて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狂おしいほどに、桜 玄武聡一郎 @echogyamera

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ