あとがき

 皆様―― 怪奇と不思議に彩られた『奇跡の魔石』たち全20話+α。

 ここまでお読みになって頂き、本当にありがとうございます。

 神代の時代より使い古された謝辞かも知れませんが、

 他にどんな言葉も思いつきません。


 ただただ、

 ありがとうございます。


 前作『~4%の魔石~』は、カクヨム異聞録応募作品ということで、文字数に制限が設けられていた事もあり、『あとがき』を書くゆとりが御座いませんでした。

 今回、この『~奇石つめあわせ~』は自分の中に貯め込んだものの大放出セールといった意気込みで執筆に取りかかったものであり、「自分的な実話怪談の舞台裏なんかも暴露しちゃいたいな!」という気持ちもあって、このようなとりとめの無い『あとがき』すら、満を持してお送りしておる次第で御座います。


 そんなわけで、まずは私のプロフィールなどからご紹介しようと思います。

 そう。私は今まで、カクヨムに自己プロフィールを公開していないのです。


「どうしてですか?松岡さん。もっと自分をアピールしないと!!」


 『~4%の魔石~』第5話『ごほうび映像』の話を提供してくれた田中くんからも、ずっと以前にそう言われました。

 確かにこれはもっともな意見かも知れませんが、きちんと理由あってのことです。


 私はカクヨムで投稿作品を発表するに当たって、一つの志を掲げました。

 純粋に私の文章を人様に読んで頂きたい、と。

 その為には、余計な先入観を与えるやも知れないプロフィール紹介は、設定するだけ無駄なのではないか?と。


 だから俺はプロフィールを書かなかったのさ。 そう田中くんに説いたところ、


「えっ、面倒くさっ!松岡さん、そのキャラ、果てしなく面倒くさいですよ!!」


 考え直しましょうよ、書きましょうよ、自己紹介!と力説されたので、「意地でも書いてやるもんか」と思ってそれきりでした。

 でも、ある意味 自分の近況も現在進行形の怪談に関係しだした今日この頃なわけで、せめて簡単な自己紹介くらいは『あとがき』なんかでしておかないと、読者様に対して義理を欠くことになりはすまいか、とも考えはじめていたのです。


 そんな経緯で。松岡真事はどんな人間か、をちょいと書かせて頂きます。


 年齢は、35歳のおじさん。長崎県出身。職業は板前です。ハモの骨切りも出来ます。

 高校時代、欲望の赴くままに小説を書いたところ友人から「面白い」と褒められ、「これはライトノベルっていうジャンルだよ」と教えられたことからラノベの存在を知り、本格的に投稿作品を書き始めました。

 そう。もともと私、ラノベ畑の人間だったのです。

 その末に、2003年第八回スニーカー大賞に『蟲狩りの男』という作品で最終選考候補作品に選ばれ、(ちなみにこの時の大賞作品が『ハルヒ』です!!)2005年には第九回角川学園小説大賞の最終選考にも『不可思議遊撃隊』なる作品で食い込みました。

 でも、あと一歩というところでどうしてもプロにはなれず。

 他の文学賞でも第三次選考突破とかまでは どうにか行けたものの、やっぱり賞は取れずに、ずっと一般ピープルのまま。燻りに燻って、自信喪失から執筆恐怖症になったりもして・・・

 そんなこんなでいろいろあって、まぁ今も夢を追いかけている真っ最中、というわけです。


 この間、ずっと実話怪談の蒐集は続けておりました。

 小説のネタにする、というのが蒐集の立て前だったのですが、どこかで情熱が歪んでしまったのでしょう。純粋に『あつめる』ことに執着するようになってしまいました。

 キチンとした文章にして発表したのは、『カクヨム異聞録』に応募したものが初めてです。

 これは多くの人に読んで頂きたいぞ、という自信のある実話怪談がその頃に20話くらいあったので、「待ってました!!」と言わんばかりなイベントでありました。大好きな稲川淳二さんが選考委員に決定した頃から、更に発憤したことを覚えております。


 さて、当然ながら私の書く怪談は『実話怪談』でありまして、必ず『体験者』の方が存在するものです。


 私は自分独自の個性というものを打ち出す意味も込めて、出来るだけこの「体験者のキャラクター」を話の前面に出して怪談を紡いでいこうと心掛けています。

 この人はちょっと天然ぽかったな、あの人は何気ない言葉のチョイスに個性があったな、などなど。手前勝手な主観で恐縮なのですが、話者各々のキャラクターに合わせて、話のトーンを変えているわけです。

 基本、自分的な怪談のスタイルは「贅肉をそぎ落とした簡潔な文章」だったのですが、ある方の体験談を書いた時から、あまりそういう事に拘らなくなりました。


 今作収録『拾った手記』の話者、富市さんです。


 この方が若い頃に体験した山での出来事は、彼のその後の人生にも大きな影響を及ぼすような衝撃的なものでした。よって、彼はこの話に強い拘りを抱いておられたのです。

 あなたの体験を文章化して発表したいのですが・・・との私の申し出に、富市さんは快く応じて下さりました。「名文を期待しております!」と言われたので、私も張り切って執筆に力を入れ、その結果完成したものを自信満々、富市さんにお見せしてみたのですが、


「うーん・・・ 何か違うんですねぇ」


 いきなりのダメ出し。

 理由は、私が「怪談的な文章」に拘りすぎているから。


「私はこの体験をしている最中、ずっと自分が怪奇ミステリーの世界に迷い込んでしまったんじゃないだろうかという異様な感覚に襲われ続けていました。だから、本格怪奇小説のような、骨太のシッカリした描写などをやって頂きたかったのですよ・・・」


 後頭部をハンマーでぶん殴られたかのような衝撃でした。

 小説っぽくならないように、ならないようにと努力してきたつもりだったのに。

 体験者は、〝小説風に書かれる〟ことを期待していたのです。


 それからは、正に富市さんと二人三脚の執筆活動でした。

 絞りに絞った文章に『怪奇ミステリー』風な味付けを施し、他の話と比べて浮き過ぎないようなバランス調整をしながら、『編集者』となった富市さんに作品を見て頂き、更に彼が気になった箇所を修正する、ということの繰り返し。

 5度ほどの大きなダメ出しの末、それをどうにかクリアして、現在の『拾った手記』は完成したのでした。


 富市さんのお気に入りの一文は、「不安のように蟠る恐怖のみが、確固として皆の周囲に渦を巻いていた」というくだりらしいです。


「私も、当時のメンバーも、正にそういう心持ちだったと思います。これは完璧に、あの時我々が共有した異様な空気を、少ない文章で表現している。見事ですな」


 べた褒めでした。

 けれどこれは、本来の自分が持っていた偏屈な『怪談文章理論』のもとでは、絶対に生まれなかったであろう文学的な表現です。話者と寄り添い、話者の心境に開かれた怪談を自分なりに目指した末に、私はある意味、何かの壁を『破った』と言えるかも知れません。


 実話怪談は、一人でつくるものではない。

 謙虚さ、というものが必要。


 謙虚さは、決して妥協ではないと思います。

 自分では書けなかったものが書けてくる。新しい文章スタイルが、浮き上がってくる。

 これは、明らかなるよろこびでした。


 トラウマになってしまったような話を提供してくれた人も多く居られます。

 そういう方々にも、精一杯の共感を持って、100%の誠意を尽くさなければならないのです。

 ・・・プロの怪談作家の方々は、むろんそういう心構えで多くの作品を執筆されているのでしょう。もはや超人としか思えぬ領域。頭が下がること夥しいです。


 また今回は、試験的に第11話『かえる』のような、体験者のキャラクターを完全に押し殺したショートショート的な怪談も敢えてチョイスし、挿入してみました。

 全体を通しで読んだ時に、アクセントとして機能していれば万々歳なのですが―― 評価のほどは、読者である皆様に下して頂きたく存じます。


 まだまだ勉強しなければならないことがたくさんです。

 質の高いものを皆さんにお届けすることで、自分を磨いていきたい。



 ――少し長くなりましたね。それでは、このへんでお別れと致しましょう。

 再三再四の繰り返しではありますが、

 心の底から  ありがとうございました。

 そして、さようなら。

 また、皆さんと一緒に 恐怖や よろこびを分かち合う、その日まで。


 松岡真事でした。

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真事の怪談 ~奇石、つめあわせ~ 松岡真事 @makoto_matsuoka

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