第7話 食事の後に
キャッシーが、キッチンの前まで私を連れてきた。キッチンといっても一般家庭にあるそれではなく、中では何人ものコックが何やら作っていた。コック以外にもメイドらしき数人の使用人もいる。メイド達がパタパタと忙しそうに動き回っている中、そこを仕切っていたのは、あの騒がしい男、ラミロだった。彼は何やら早口で喋りながら的確な指示を出しているようだ。
キャッシーはキッチンの入口で立ち止まり、忙しそうに皿を運んでいるメイドに声を掛けた。
「……ラミロ……いる?」
「あらお嬢様、執事長に御用ですか? 今は食事の支度に忙しいので……」
キャッシーは私を指さしメイドに言った。
「……私じゃなくて、お兄様が……ご用事」
キャッシーがそういうと、メイドは仕方ないとでも言いたげながらも、『執事長!』とラミロに声を掛けた。
「これはこれは、坊ちゃんとキャサリンお嬢様。こんなところに来ていただかなくてもよろしいのに。ちょうど今、お食事の準備をしていましてね、いやぁー、食事の準備は私にとって毎日の一番の山ですよ。ここにいるコックとメイドだけでも十三人いますからね。お屋敷の使用人すべて合わせるとおよそ三十人くらいでして、それだけの人数がいるとやはり毎回準備が大変なんですよ。それに、今夜は坊っちゃんが久しぶりに帰ってこられたということで特別な食事を出すようにとだんなさまからいわれていまして、もう一大事ですよ。坊っちゃんが返って来られたのが嬉しいんですかねぇ――」
ラミロの話はとても長かった。彼のセリフをすべて書いていると話が全く進まないため以下一部省略させてもらう。
さて、キャッシーがわざわざ私をここへ連れてきた理由はラミロが執事長として屋敷の品々の管理をしているからだ。その管理しているものは食品や消耗品から贈答用の装飾品、果ては馬などの家畜までお屋敷のありとあらゆる財産である。キャッシーはそれらの中からプレゼントを用意しようと考えたのである。キャッシーがラミロにそう説明し終わると、ラミロはわかりました、とは言ったものの長々と食事の準備が忙しいという話をし始めたので、私が彼の言葉を遮り食事の後に装飾品をいくつか見繕って持ってきてもらうよう頼んだ。
その後、食事の準備ができるまでの間、どんなものをロッティーにプレゼントするべきかキャッシーと話をした。
「……ロッティーの好きなもの……?」
「好きな色とか、なんかプレゼントを選ぶときの参考になりそうな事知らない?」
「……うーん……多分好きな色は赤……だと思う……」
キャッシーは曖昧に答えた。まぁ、仕方がない。いくら双子とは言え、好みを把握しているわけではあるまい。
その後もシンプルな物か派手な物かどちらがいいなどの話をしていると、使用人が私たちを呼びに来た。食事ができたらしい。使用人に連れられてキャッシーとともに先程の厨房の隣にある広間の様な部屋へ来た。私達より先にロッティーも来ていたが私を見るとプイと顔を逸らした。
広間には五十人ほどが並ぶことのできそうな大きなテーブルに乗り切らないほどのご馳走が並んでいた。子羊の丸焼きや、鴨の様な野鳥を香草と蒸したもの、魚をパイで包んだものなど沢山あった。この屋敷は海からだいぶ離れた所にある様に思うが、野鳥はともかく魚があるというのは、街からの交通手段が馬車だった事を考えると相当なご馳走である事がわかる。
私達の家族が揃うと使用人たちも次々と集まって来て同じ食卓を囲んだ。貴族というものは使用人たちとは身分が違うため別々に食事をとるのだと思っていたが、どうやら少なくともこの家はそうでは無いらしい。
その後、食事は一時間にも及んだ。食事の前には不機嫌そうだったロッティーも食後は機嫌が良さそうだった。プレゼントを渡すなら機嫌良い今の内に渡すしかない。
食事が終わった私はラミロに声を掛けた。どうやら既に別の部屋にいくつかのリボンやアクセサリーなどを用意してある様だった。彼にその部屋を教えてもらい、キャッシーと一緒に教えられた部屋へ向かった。
絶望して死んだら、異国の美少年でした。 波来亭 獏象 @Haraitei
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