第6話 勲章
「ところで、ケント。お前が無事に帰ってきてよかったよ」
コロコロと車いすで移動しながら、笑顔で優しく声を私にかけてくれた。
「見ての通り私は足が悪くてね。お前も知っているとは思うが、先の
私は興味深く父の話を聞いていたが、キャッシーが横から割って入ってきた。
「……お父様、その話はもう何回も聞きました。……ただの騎士だったのにその功績で領地と爵位を貰ったんですよね」
機嫌よく話していた父は、少し申し訳なさそうな顔をしながら答えた。
「キャッシーは手厳しいな。まぁ概ねその通りだが、以前もただの騎士ではなくて、陛下の近衛だったんだ。それとキャッシー、領地と爵位は『賜った』と言いなさい」
車椅子を大きな棚の前で止めた。父はさほど怒っているわけでもなさそうだが、すこし真顔になって話をつづけた。
「私が足を駄目にしてしまったのは、ケントがまだ二歳くらいでキャサリンとシャーッロットがもうすぐ生まれるというときだったからな。騎士を続けられなくなってどうやってお前たちを育てようかと思っていた。そんな時に陛下から領地を割譲していただいたんだ。本当にありがたいことだった。通常は騎士が領地を賜ることなどほとんどないのだぞ。」
父は自慢げにそういい、棚の中から勲章のようなものを出した。銀のような素材でできており、全体は冠を被った大きな鳥ののような形で、中心には四色の盾があり、その両側に馬と二本の剣が彫られていた。
「これを、お前にやろう。」
そういって、父は持っていた勲章のようなものを私に渡した。
これは貰っていいものなのだろうか。
「こんな大切なもの、いただけません」
私はそう答えた。爵位などの証なのかもしれないということもそうだが、大けがをしてまで賜ったという勲章を気軽にもらってよいものか。
「なに、そんなに構えるものじゃない。これはただの飾りだ。」
父は優しい口調でそう言ったあと、何やら険しい表情をし、私の包帯で巻かれた手を取った。
「ケント、お前には行ってもらわなくてはならないところがあるのだ。その飾りも、少しは役に立つ」
私は父の真剣な表情に、ゴクリ、と唾をのんだ。父は、自らの手元の私の手を見た。
「まぁ、詳しいことは怪我が治ってからにしよう。とりあえず怪我が治るまでゆっくりしていなさい。それとロッティーとの仲直りもしておくように」
包帯の巻かれたケントの手を見て、今は言うタイミングではないと思ったのだろうか。
どこかもやもやした気持ちで、キャッシーとともに父の部屋を後にした。
父の部屋から出てすぐにキャッシーに、ロッティーと仲直りするためプレゼントをしたいと相談をした。これは建前で、何か身に着けられるものをロッティーにプレゼントし、キャッシーと見た目で区別できるようにすることが本当の目的だ。キャッシーにも身に着けられるような別の何かをあげれば間違えることはなくなるだろう。それまでは間違えないよう極力キャッシーと一緒にいよう。
キャッシーは、わかった、というとどこかへ歩き出した。私はキャッシーを見失わないようについていった。
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