第4話 白蛇の呪い(完)
今日の朝は昨日とはまったく違い、まるで台風が去った後のような晴天だ。
ところが、登校すると嵐が待っていた――
「神夜君、大変よ! 原田君が雷に打たれて亡くなったの!」
「そんなバカな……」
「本当よ。職員会議の話し声が聞こえたの」
確かに昨日の雷は酷かったけれど、都会には建物がたくさんあるから人に落ちることなど無いはずだ。
「どこで雷に打たれたんだ?」
「校舎の裏庭で……」
「時間は?」
「そこまでは知らないわ」
僕が白蛇を退治した時間と、原田が雷に打たれた時間は一致しているのだろうか? そこだけが気になる。もし一致していたら、呪詛返しの可能性があるのかもしれない。
「藤崎さんは呪詛返しを信じてるのかな?」
「私は……」
「私は信じてないわよ」
一条さんがいつの間にか僕の横に来ていた。
「僕も信じていない。だって、いくら人知を超えた力が働いたといっても、落雷を制御できるとは思えない」
「変な理屈だけれど、半分は同意するわ」
「変かな?」
「だって、人知を超えた力の話をしているのに、落雷の制御とか、物理学的な視点が混ざってるわ。お互いに相容れない話しを混ぜたら結論はどうなるのかしら?」
「お~、気づかなかったよ。一条さんは賢いな」
「あら、ありがと。好きになってもいいのよ」
「え~と……、考えておくよ」
考える問題じゃない気もする。藤崎さんのツッコミはまだかな?
僕は藤崎さんの顔を覗き見た。
「知らないわよ。ふんっ」
藤崎さんには振られてしまった。
いずれにせよ、感情を直接ぶつけられることになれていない僕は、一条さんの想いを受け止める自信がない。ちょっと、情けないのは分かっているけど……。
その日、坂上さんは休みだそうだ。昨日の様子だと、明日には登校すると思う。
授業は普通に始まった。
原田が落雷にあったとしても、そこに事件性はない。遠野さんとは扱いが違うのは当然のことだろう。
しかし、落雷による事故死の噂はすぐに広まった。原田が登校していないのだから、噂に信憑性があるからだろう。
そして僕はというと、何故か昼食は、藤崎さん、一条さんと一緒に食べることになった。
「そう言えば、大野さんが休んでいるみたいだけど、どうしたんだろう?」
「あら、大野さんのことが気になるの? 彼女も神夜君に気があるみたいだったけど」
「昨日の事件に関係しているかなと思ってね。一条さんは大野さんと仲が良かったよね?」
「そんなことはないわ。普通のクラスメイトよ。神夜君、口元にご飯粒がついてるわよ」
一条さんが僕のご飯粒を取ってくれた。そして、食べた――
「えっ、一条さん……」藤崎さんがキョトンとした顔で一条さんをみている。
「どうしたの? お米は大切にしろと教わらなかった?」
「もちろんそう教わったわ……。それにしても一条さんって大胆だし、迷いがないよね」
「よくそう言われるわよ。変かしら」
「変というより、羨ましいな。私なんて迷ってばかりで」
「でも、誰よりも行動力があるわよね。さすが委員長になるだけあるわ」
「藤崎さんって、委員長だったのか!」
「酷い、神夜君。今頃知ったの? そう言えば神夜君って、ホームルームの時でさえ寝てるもんね」
「確かに寝てたという記憶はある」
僕は駄目なところばかりが目立つな……。何で一条さんは僕を好きだと言うんだろう? それも謎の一つだな。僕の不思議データーベースに登録しておこう。
その日の午後、二件の訃報が担任から告げられた。
最初の一件は落雷に打たれた原田のことだった。しかし、それは既に皆の知るところだったので、それほどの驚きはなかった。
しかし、二件目を聞いて僕は戦慄した。何故ならその訃報は、今日休んでいる筈の大野さんだったからだ。
大野さんが何故死んだのか、まだ死因は分からない。
二週間の間に同じクラスから三人の死者がでるなど、偶然にしてはできすぎている。もしかしたら、大野さんも白蛇の呪いと関係しているのだろうか? そしてそれが呪詛返しによるものだったら……。
「神夜君、まさか自分のせいだと思ってないでしょうね」
「一条さん、僕には何が何だか分からなくなってきたよ」
あれっ、委員長はどうしたんだろう?
「一条さん、委員長はどこに行ったんだろう?」
僕は藤崎さんのことを委員長と呼ぶことにした。
「委員長はいつも動き回っているから、どこにいるのか検討もつかないわ。でも、彼女のことだから、大野さんの自宅に電話くらいするかもしれないわね」
「そう言えば、遠野さんの自殺のことも誰より早く知ってたな。ひょっとしたら電話したのかもしれない」
「神夜君、委員長が来たわよ」
委員長は青い顔をして僕達のところへ来た。
「神夜君、一条さん……」
「何があったんだ?」
「大野さんの家族からは誰にも言うなって言われているんだけれど、二人には話しておこうと思います」
「まさか……」
「大野さんは自宅で窒息死したそうよ」
「犯人は見つかったの?」
「見つかってないの。部屋を荒らされた形跡もないし、物取りの仕業ではないみたい」
「怨恨というわけでもなさそうよね。彼女、真面目だったし優しい人だったわ」
遠野さんの自殺、原田の落雷による死、大野さんの絞殺……。
彼らには何があったのだろうか? 僕の頭には非現実的な妄想ばかりが浮かんでくる。
でも、確かに僕は蛇を絞め殺したし、委員長もそれを見ている。現実派の一条さんも蛇の影を目撃した。それにも関わらず、現実味のない事件だった。
しかし、僕の首には銀の首輪が嵌ったままで、それは紛れもなく僕自身の現実だ。
いずれにせよ、真相は闇の中にあり、僕には何もできない――
【後書き】
ソフトなホラー。如何でしょうか?
三人も死者が出ているのに、ソフトでは無い気もしますが……。
いずれにせよ「白い蛇の呪い」は完了です。
怪異が棲む学園 ~呪われた血族~ 玄野ぐらふ @chronograph
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