アンドロイドvsニート「ネットサーフィン対決」

ちびまるフォイ

人間が勝てる唯一のジャンル

「チャンピオン、ネットサーフィンで世界を取った感想は?」


「いや、意外とたいしたことなかったですよ。

 普段のニート生活をなめないで欲しいですね」


「さすがネットサーフィンチャンピオン!!」


ネットサーフィンがスポーツとして登録されて数年。

かつては社会不適合者として最下層の扱いを受けていた俺も

ネットサーフィンでなら世界を取れた。


俺に負けた敗者は口をそろえて言う。


「貴様……それだけの才能をどうやって磨いた……!」


「ニートは1日24時間ネットしているからな!」


「バカな……!」


まっとうな社会生活を営んでいる人間とは努力値がちがう。

ネットサーフィンで世界を取ってから手紙が届いた。


『あなたの能力を見込んで試したいことがあります。

 よければ、研究所に来てもらえませんか?』


「ニートなので家から出られません」


と返信したところ研究所が移設してきた。なんという信念。


「テレビで君のネットサーフィンの力は見ていたよ。

 そこでうちの研究所で開発している

 最新のアンドロイド"サーチちゃん"と勝負してほしい」


「へぇ、ロボットと?」


「あなたに勝てば人工知能の宣伝になりますし、

 負けたとしても改良点があきらかになるんです」


「おもしろい。ロボットごときに柔軟な人間の検索力が負けるはずない」


かくして、ネットサーフィン電王戦がはじまった。

同じお題を見て先に目的のページにアクセスできたほうが勝利となる。


「では、最初はこれだ!」


博士がお題を出した。

内容はどこかのブログ記事だろうか。


すぐに内容の一部を抜粋して――。


「ミツケマシタ」

「早ぁ!?」


「すごいぞ、サーチちゃん! さすがだ! 角砂糖をあげよう!」

「アリガトウゴザイマス」


「ふ、ふふ……まぁ初戦くらい勝たせないと面白くないからな」


カッコイイ敗者の対応を検索してそのセリフをしゃべった。



「では次の勝負は、これだ!」


今度は画像クイズ。

画像にうつっている小学校を特定した方が勝ち。


画像検索じゃ特定に時間がかかりすぎるので、

画像に入り込んでいるマンホールの構造でエリアを割り出す。

そして近くにある小学校を――。


「ミツケマシタ」


「ちくしょーーー!!」


2戦目も敗北。


「すごいぞサーチちゃん。やはり私が組み込んだ

 検索アルゴリズムは完璧だったんだ」


「ぐっ……実はあらかじめ準備した質問じゃないだろうな」


「そんなことはしない。

 仮にそうだったとしてもそれに勝てなくてどうする」


たしかに、世界戦ではあらかじめ出てきそうな問題を予想して準備していた。

こんなのは事前に考えられる状況。



「では、最後の問題。この曲を探してください」



最後は画像でも言葉でもなく音楽。

音声検索など機械にはできない。しめた。


しかも、ネットサーフィン世界戦にそなえて

ネットで曲の検索結果は頭に入っているから――。


「ミツケマシタ」


「またかよぉぉ!!!」


やっぱり機械には勝てなかったよ……。


「すばらしい! すばらしいよサーチちゃん!

 やはり私のプログラムしたアルゴリズムは完璧だ!

 どんなネットサーフィンだって負けはしないぞ!」


完全に噛ませ犬としての役回りになってしまった。

当然、世界チャンピオンとしてこれでは収まりがつかない。


「本気……出させてもらうか……」


俺は足首に巻いていた重しを外した。

外したところであまり影響はない。ダイエット用だから。


「なにを負け惜しみを。私のサーチちゃんのが優れているとわかったろ」


「いやちがう。今度はこのジャンルで勝負だ」


「どんなジャンルでも結果は同じさ」


ネットサーフィン延長戦が始まった。

始まるやいなやモタつく機械に対して俺は即答で答える。


「そのページはここだ!」

「こっちのページだな!」

「見つけた! ここだ!」


さまざまな検索サイトやまとめサイトを使って、

あっという間に目的のサイトを割り出していく。


「ば、バカな……! サーチちゃんが圧倒されている……!」


「アリエナイアリエナイ」


「次検索だ! サーチちゃん、この動画を探すんだ!」


「リョウカイ」


サーチちゃんが検索しやすいものを選んで検索させた。

ここにきて初めてサーチちゃんが先にこたえた。


「ミツケマシタ!」


「どうだ! まいったか!

 やはり私のサーチちゃんは完璧なんだ!」


「フッ……甘いな。その動画、すでに削除されているぜ」


「なにぃ!?」


「そいつは残像さ。本物はこっちだ!」


俺は目的の動画を見つけ出した。

これには博士も負けを認めざるを得ない。


「なんということだ……10戦全敗……。

 こんなにも早いなんて……!」


「経験の差だよ。アンドロイドと俺とじゃサイトを巡回している時間が圧倒的にちがう。

 それがこの差を作ったんだ」


「だが不思議だ……。まるで悔しくない……」


「強すぎる力のぶつかり合いは敗者に悔しさを残さない。

 さわやかな高揚感だけが残るのさ」


「いやたぶんそういうことじゃない気がする」


博士は首をかしげていた。




「アダルト関連の検索速度で負けたとしても

 ぜんぜん悔しくないのは不思議だ……」

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