第2章 日本語版(翻訳版)

 少年がいた。青い空、光る太陽、そしてすずしい風。

 彼はどこからともなくやってきてどこかへと歩いていた。

 彼は自らをバラだと言うタンポポを見つけた。

「君がバラ?」彼が言った。

「えぇ、そうよ。どうして?」彼女もまた少女のように言った。

「えぇと……。君はバラにしては可愛らしすぎるから。普通、バラは恐ろしいトゲを持っているだろ?」

「あら、ありがとう、坊や。私は平和を愛しているの。だから武器なんて必要ないの」

 少年は密かに考えた。「彼女は嘘吐きだ。でも、彼女は純粋だ。」

「会えて良かったよ、可愛いバラさん。でも、僕はもう行く時間だ」

「こちらこそ会えて良かったわ、坊や。あなたはどこへ行くの?」

「分からない」

「分からないの?」

「うん。僕は僕のことを何も知らないんだ。誰で、どこからきて、どうして歩いているのか。」

「まぁ……。それは怖いでしょう」

「そう思うの? でも、僕はそう思わない。だって僕は何も持っていないからこそ、何でも手に入れられるから!」

「まぁ、良い子ね。あなたは何が欲しいの?」

「まだ分からない。でも、だから、僕はそれを探して歩いているんだ」

「……あなたがうらやましいわ」

「どうして?」

「だって、あなたはあなたが行きたい場所へ行ける。でも、私には出来ない」

 少年は考えた。「彼女は彼女自身について知らない。彼女は飛べるのに」

 風はすずしい。だけど、夏はもう遠くない。

「君はもうじき風に乗ってどこへでも行けるよ」

「いいえ、無理よ」

「いや、出来るさ」

「ありがとう。あなたはとても良い人ね」

「どういたしまして。でも、僕は良い人かも知れないけど、悪い人かも知れないよ。僕は僕について何も知らないからね。」

「あなたは間違いなく良い人よ」

「どうしてそんなことが言えるの?」

「私はあなたが優しいって知っているから」

 少年は分かった。「僕は僕自身を知らない。でも彼女のことは知っている。彼女は彼女自身を知らない。でも彼女は僕を知っている。それってちょっと素敵じゃないか」

「よし、僕は行くよ」

「さようなら、坊や」

「さようなら、バラさん」

 少年は再び歩き始めた。

 青い空、光る太陽、すずしい風、そして可愛らしいバラ……。

 少年は笑いながら言った。

「世界は美しい!」

〈了〉

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- The Boy & The Rose - A novel for studying Japanese or English.〈少年とバラ〉英語版/日本語版 淺羽一 @Kotoba-Asobi_Com

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