はいいろの陽

Q。

はいいろの陽

誰かが言ってた。



遠くの世界はここより綺麗に見えるって。







またどこかでビルが廃れた。


朽ち果てた残骸は静かに崩れ落ちる。



この街はもう息をしていない。


いや、息の仕方を忘れたのだろう。



こうやってガスマスクをつけなければならないくらい、はいいろの空気は害悪だ。


それもその空気を作ってるのはこの街そのものなのだから。



使われた酸素はやがて二酸化炭素になり、害なので外には吐き出される。この街はそういった循環ができない。


外部からの風を一切通さないため換気が出来ず、有害な空気を漂わせ続けている。


そしてその害となる空気は、人の身を簡単に滅ぼせるほどの有害物質を含んだスモッグだ。


そのスモッグは他の物質を喰い、その物質のフレーバー付きの進化した有害物質となる。


だから、この街そのものがスモッグを放っている様なものだ。



当然住んでた生命は全部死滅。唯一、俺だけがここにいる。



なぜそんな街にいるのかって?


さぁて、何故なんだろう。



なにせ、俺もまたこのスモッグみたいに、外に出ることが許されないんだから。






昼だ。太陽はこの街を包むスモッグの膜ではいいろに見える。


見上げたって眩しくもない。


そろそろ雨が欲しい。乾燥してるから湿気が欲しいんだ。



ガスマスク以外の装甲はない。それどころか俺が着てるのは、汚れきったランニングシャツに、下は緑の七部丈ズボンだ。


靴は次世代型シューズ。アンチグラビティシステムで浮きながら移動できる。ローラースケートよりも速い。


あとは錆つき始めた鉄パイプだな。


案外頑丈で5年間使ってる。愛用品だ。



今日はどこに行こうか。


靴のブーストを解放して、時速60キロで狭い路地を走り抜ける。


この街は無駄に広いから探索し放題。


地下も広い。アリの巣みたいにいくつも部屋があり、それに続く廊下が伸びている。



俺がここにいる理由なんて、ホントはないんだろうな。


ただ、ホームシックなだけ。


ほんとにそれだけ。




なんだか今日は暑いな。


時期に夏が来る。


ここにいると季節感覚が鈍る。


今日も手に入れた。


"思い出のブツ"



誰かが大切にしてたものを集めるのが趣味なんだ。


持ち主が消えたんだから、窃盗にはならない。



まぁそのブツも例外なくはいいろだがな。埃が被ってるとかカビが生えてるとかそんな感じ。


でも今日見つけたのは形状がそのままのもの。


こういうのはかなりレア物よ。





今日は収穫だ。


早速帰ろう。


アジトは地下だ。


アジトには色がある。


唯一、俺が落ち着けて、同時に危険な場所でもある。




アジトに付いたらまずはブツを洗う。


特殊な水を用いることで、はいいろを落とせるのだ。


今日拾ったのは、キーホルダーとポケベルと写真、極悪レスラーのマスク、そしてアメジスト。


どれも誰のものかわからない。ポケベルに至っては画面も点かない。


傍から見たらガラクタ物でも俺には宝の山に見える。今日からお前らは俺のコレクションだ。




さて、やることやったから寝るとしようか。


地下だから昼も夜も関係ない。


寝たい時に寝て、起きたい時に起きる。


自由な生活を望んでたんだ。


最高じゃないか。







今日は客人が来るんだ。


ふつうの人ではない。


本人も言ってた、自分が何者かわからないと。


何の種族なのかがわからないと。


そんなめちゃくちゃな理由で、このはいいろの影響を受けないでいる。




客人は高いところが好きだ。


99階建てのショッピングモールビルの屋上。


そこには遊園地があったんだ。


餓鬼と老害の雑音が響きまくってた。


今じゃホラーに出てきそうなくらいの廃れ具合だ。錆びつくよりも勿論はいいろの浸食の方が強い。


はいいろの遊園地。その入口に客人はいた。



薄い金色のセミロングで、綺麗な女の顔をしている。学ランみたいなロングコートを羽織り、ベルトには黒のリボルバー拳銃を下げている。



「早いじゃん」


「お前よりは時間には厳しいからな」


「いいねぇ、用意万全?」


「当然だ。いつだって死ぬ覚悟で生きてんだよ」


「上等。行くぞ、人殺しガスマスク!」




こいつとの殺し合いはいつも楽しい。


錆び付いた血液が沸騰してくる。熱くて熱くて。脳汁が溢れ出て。ぶっ飛ばさざるを得ない。




「お前も物好きだな」


「何が!」


「親の仇だろ?お前にとって俺は」


「当然!だけど、シリアスって苦手なのよ、ワタシ!」


「馬が合うと思ったら、そういう事か!」






昔から特殊な体質だった。


研究所で生み出された時から。


体が変形すると言われる有害物質に触れても、寧ろそれを取り込むようになっていたんだ。


このはいいろもそう。


薄着で充分なのはこの体質のせい。


俺は有害物質を取り込まなければ、死んでしまうのだとか。しかもめんどくさいのが、肺はふつうの人と同じだから、ガスマスクが必須なんだって。


不気味だとか、化け物だとか散々言われた。


だから、哀しむのも怒るのも飽きたんだ。


シリアスは大っ嫌いなんだ。





散々殺り合った。生命10個分は殺ったかな。


客人は帰っていった。


またヒマだったら来るってさ。



また俺が負けたな。


165-159か。


着々と仇取られまくってる。



コンクリートの地面は冷たい。


でも太陽のおかげで風邪はひかないで済みそうだ。


ありがとな。お前のおかげで俺はこれからも生きていける。


お前が命綱ってな。




それじゃ、今日1日お疲れさん。


また明日な、同じ名前のヒカリよ。


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