複合大災害によって文明が壊滅し、そして再構築された未来。
市民のライフラインたる水道に対して取水制限が設けられ、下層に住む人々は『水泥棒』を余儀なくされる街――企業連合によって統治される街・南古野を舞台とした、アジアンゴシック×ポストアポカリプス×ディストピアで繰り広げられる異能バトルが本作の大様である。
生活の描写は解像度が高く、貴重な水の一滴の滴りや、下層住民の食べる饅頭の香り、ごった返す人いきれの熱気が伝わってくるようだ。
各所に散りばめられた生活感と閉塞感を同時に演出する設定の数々も秀逸であり、『Cyberpunk』シリーズ的な、「都市」と、「都市」について回る誇張された資本主義へのフェチズムを喚起する。
だが個人的に最も推したいのは、何と言ってもやはりユニークかつ面白い戦闘だ。一つの攻防をとっても意外性のある異能力の応用や個性的な戦闘法に彩られており、それを引き立てる硬質な文体も相まって、アクション映画と能力ライトノベルの良いとこどりをしたような感触でぐいぐいと読者を引き込んでいく。
作中全体に漂う空気は砂埃のように乾いているが、PTSDによって起動する異能力という設定が人物の湿り粘ついた心情を暗喩し、それらの仄暗くも熱い魅力を勢いのある展開が強力に牽引していく。
雨を巡り戦う少年少女の傷の先に、願わくばささやかな幸福が待ち受けていることを切に願いたい。