ウチの殺人鬼は優しすぎる
ぽてゆき
第1話 大量殺人鬼時代
それは今から数年前。
日本全国各地、いや世界各地に突如として大量の殺人鬼が現れるという現象が起きた。
それこそ1つの町に1人の殺人鬼ぐらいの割合で、残念ながら多くの犠牲者を出してしまった。
幸い、僕自身と妻、そして小さかった息子は無事で、親戚や友人など知り合いの中に被害者は出なかった。
ただ、それから生活は一変。
日本では政府が総力を挙げて殺人鬼退治に総力を挙げたものの、後から後から際限なく現れるため、いまだに殺人鬼問題は解決に至っておらず、僕たちは常にその恐怖と隣り合わせの日々を送っている。
中でも一番大きな変化は帰宅時間。
殺人鬼は、なぜか日没後にしか姿を現さない。その習性に合わせて、学校や会社、各店舗は全て夕方までには終わらせるようになった。
その点だけに絞れば、仕事に追われる時間が減り、家族と共に過ごす時間が増えて幸せになったとも言えるのだが……
「ねえパパ。殺人鬼買って~。買って買って~」
小学2年生になった息子が、僕の肩を揺らしながらおねだりしてきた。
夕方5時。
以前であれば、まだまだバリバリ働いていた時間だが、今の僕はとっくに会社から帰宅してシャワーを浴びて部屋着に着替えてリビングでテレビを観たりなんかしていた。
「あー、そうだなぁ……ウチもそろそろ買うかなぁ……でもお金がなぁ……」
僕は、いつもどおりお茶を濁そうとするが、今日の息子はそれでも引き下がろうとしなかった。
「ねえ買ってよ~。クラスの友達んちはほとんど持ってるのに~! 買って買って~」
息子は、おねだり酔いをしそうになるほどグワングワンと僕の肩を揺らしてきた。
さすがに気持ち悪くなってきたのでそれをやめてもらうために……というわけじゃないが、安全面を考えれば必要性は十分あることも確かで、そろそろ決断の時が来たようだ。
「よし。じゃあ、買うか! 殺人鬼!」
「わーい、わーい! ママ~、とうとう殺人鬼買ってくれるって~!!」
息子は満面の笑みを浮かべながら、キッチンで晩ごはんの支度をしていた妻の方へと駆け寄って行く。
「……あらぁ、良かったわねぇ。どんな殺人鬼が来るかしらねぇ?」
妻はそう言いながら、一瞬僕の顔を見て不敵に笑った。
決して余裕があるわけじゃないウチの家計のどこから殺人鬼代を捻出するかと言えば、残念ながら僕の小遣い以外にない。
まあ、それを覚悟した上で、ついに殺人鬼を買うことを決意した。
全ては、家族の安全を守るためだ。
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