爽やかな朝

木沢 真流

第1話 

 ブ、ブー。


 今日もスマホのバイブレーションで目が覚めた。


 眠気まなこでスヌーズをタップする、眠いながらもなんとか目が覚めた、上出来。


 一つ大きく伸びをすると、カーテンの隙間から日差しが顔を出している、少し手でそれを広げると、あふれんばかりの日差しが私の目をくらませた。


 何ともいい朝だ。今日は自分で朝食を作ってみようか、久しぶりだ。


 冷蔵庫には何が入っているだろうか、幸い卵は数個入っていた、ケチャップもある。


 決まりだ、スクランブルエッグにしよう。


 私はフライパンを探し、何とか見つけると、コンロに火をつけた。使い方ならわかる、幸い簡単なコンロだ。


 あれはどうなってるだろうか? 実はさっきから楽しみで仕方ない。


 クリスマスの朝、クリスマスプレゼントを待つ子どものように、あれの事が気になっているが、私はそれを敢えて押し殺した。楽しみは待つほど大きくなるものだ。


 あれ? 油はどこだろう? 私はおもわずたくさんの扉を開けては閉める。


 バタン、という大きな音で住人を起こしてしまわないだろうか? と少し不安がよぎったが、それはすぐに消えた。そんなはずはない。


 油が無かったか、バターかマーガリンでもいいんだが……あった。これでスクランブルエッグにありつける。


 思わず鼻歌がでる。もうすぐだ、きっともうすぐ自分はあそこへ戻れる、何て楽しみなんだろうか。


 鼻歌の息継ぎの合間に、2つのにおいが鼻をつく。一つはこんがりと焼けた卵のにおい。


 もう一つは……これこそが私が待ちわびたもの。うん、良い成熟具合だ。


 もうだめだ、私は我慢できなくなって、寝室へ向かった。そして勢いよく扉を開ける。


 お、これはいい。ただちに凄まじく鼻をつく腐乱臭が私を襲った。


 これなら大丈夫だろう。これで、窓をあけて、誰かが気づけば、人が死んでいることに気づくだろう。


 私が昨日不法侵入し、殺害した死体は腐敗がだいぶ進んでいる。いずれ誰かが気づき、警察へ通報。


 そして私はまた刑務所へ戻れる。そしてあの仲間達と楽しい時間が始まる。


 朝の成熟は私をまた故郷へ返してくれることになるだろう。


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爽やかな朝 木沢 真流 @k1sh

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