第3話 美奈、巨人と戦う

 ――「るー、らる、受身、尊敬、可能、自発……」


 中世以前の日本人が創り出した言語。それがどこか遠くで響いていた。


 ――「推量……、むー、べし、らむ、けむ、まし、たし、めり、らし――」


 それはまるでどこか異国の音楽のように教室の中に淡々と、そしてゆっくりと流れ、彼女を眠りの世界へ誘う。まるでその上に重りを乗せられたかのように、美奈の頭はこくりこくりとリズムを刻んでいた。いつしか彼女の意識はふわふわと浮かび、まるで雲の上で寝ているような、そんな錯覚にとらわれた――



* * *


 ――「……様、…リスさ……、クリス……」


 どこからか呼ぶ声がした。どこかで聞いた声――


「クリス様!!」


 強く呼ぶ声が響いた。美奈は、はっと目を開けた。気がつくと、美奈は大きな鍾乳洞の中にいた。

 彼女を呼ぶ声は、さらに大きくなった。


「クリス様! 早く! 早く剣を!!」


 ――え? ……剣? 


 美奈はふと気配を感じて顔を上げた。すると、そこには――


 巨人。


 巨人が立ち、低い唸り声をあげながら美奈を見下ろしていた。その身長は人間の五、六倍はあるだろうか。肌は緑色で、ふくらんだ腹。大きな頭には髪一本生えておらず、目は赤く爛々と光り、口元には巨大な牙が見えた。一方で両腕には見るも逞しい筋肉が盛りあがり、その右手には電柱ほどの大きさの石の棍棒を手にしていた。 

 突然目の前に現れた怪物に、美奈は目を丸くした。そして、思わず悲鳴を上げた。


 巨人は美奈の悲鳴に驚いたようだった。すると、一瞬怯んだ巨人の肩口に、空を切る音と共に一本の矢が突き刺さった。巨人が苦悶の表情を浮かべて一歩後ずさる。

 その隙に、一人の男が美奈と巨人の間に立ちふさがった。


「ヘモドロス殿! 私がやつの注意を引きましょう! その間にクリス様を!」


 皮の鎧を身に纏い、大きな弓を持ったその男――レグルスが叫んだ。

 巨人は呻き声と共に肩口の矢を引き抜き、その場に投げ捨てた。そしてレグルスを睨むと、低く重々しい叫び声と共に、彼に向かって巨大な棍棒を振り下ろした。レグルスはそれをひらりとかわし、巨人の身体へ向けて再度矢を放った。矢は巨人の腹に刺さったが、巨人はまるで煩わしいとげを抜くようにそれを摘んで引き抜いた。この一撃で巨人の興味は完全にレグルスに移ったようで、逃げるレグルスを追って洞窟の奥へと歩いていった。


 巨人が立ち去ったのを見て、洞窟の隅に身を潜めていた老人がすかさず美奈の下へ駆け寄った。灰色のローブを纏ったその老人に会うのはこれで三度目だった。美奈は見知った顔を見て少しほっとした。


「あ、ヘモロゴス……!」


「……ヘモドロス、でございます! クリス様、もしやまた取り乱しに!?」


 老人は軽く溜息を吐いたが、すぐに慌てて美奈に兜を被せた。突然頭に重いものを乗せられ、美奈は軽く抵抗した。


「や! 何これ!?」


「先ほどオーガの不意打ちで飛ばされた兜でございます! お忘れですか、貴方様はあの棍棒を頭に受けられたのですぞ! この兜が無ければ、きっと今頃は……」


「えっ!? 先ほどって、何それ? あたし、さっきまで古文の授業受けてたはずなんだけど……」


「コ、コブ……? コブなど気にしている場合では御座いませぬ!」


 美奈の兜の紐をきゅっと締め、老人は傍らに落ちていた大きな剣を美奈に差し出した。その銀色の剣は、薄暗い洞窟の中でも白く鋭い光を放っており、不思議な力を感じさせた。それを見た美奈はまた戸惑った。


「え……? 何? これ……?」


「クリス様、早くこの剣を! レグルスも長くは持ちませぬ! これであのオーガを仕留めるのです!」


 老人は剣の柄を美奈に向け、ぐいと突き出した。美奈はうろたえ、両手をぶんぶんと振った。


「む、無理無理無理! あたし、ただの女子高生だよ!? あんなでっかいの倒せるわけないし、そんな危なっかしいもの持てないよ!」


 老人は目を丸くした。


「ジョ、ジョシコーセー? ああ、なんということか。まだ混乱しておいでなのですか!」


 その時、洞窟の奥からずしん、と重く響く音がした。レグルスが慌てた表情でこちらへ走ってきた。


「ヘモドロス殿、もう矢が残りわずかです! これ以上は食い止められませぬ。クリス様はご無事ですか!?」


 それを聞いて、老人は急いた様子で美奈に剣を差し出した。


「クリス様、早く剣を!」


 美奈は首を振ってそれをかたくなに拒んだ。


「む、無理だよ! あたし、剣道部でもないし、こんなの持ったこともないし……」


 その時、洞窟の奥から巨人がぬっと姿を現した。その身体には矢が二、三本刺さっており、その目は怒りに満ちていた。それを見た美奈は恐怖で背筋が凍りついた。美奈は口元を震わせながら老人に提案した。


「そ、そうだ、ヘモンロス、あたしの代わりにそれ使ってあいつ倒してきてよ、ね? ね?」


「ヘモドロス、でございます。ああ、クリス様、早く正気を取り戻しくだされ!」


 老人はなおもその剣を美奈に渡そうとし続けた。美奈は徐々に近づいてくる巨人に怯えながらも、それを拒み続けた。


「ねえ、そんな剣、あたし要らないよ! それ使って早くあの怪物やっつけてきてよ!」


 老人もまた背後から近づく巨人への恐怖に駆られていたが、それでもなお主君が正気を取り戻すことを信じ、冷静に語った。


「クリス様、落ち着いてくだされ。それは私にはできませぬ。王より賜ったこの聖剣は、クリス様のみ振るうことが許されたものでございます」


 それを聞いて、美奈は目を潤ませた。両手がぶるぶると震えた。


「そんな、だって、無理、無理だってば……あたし、クリス様じゃないし……」


 今にも泣き出しそうな表情の美奈を見て、老人は頭を振り、剣をそっと地面に置いた。


 一方、レグルスは巨人の棍棒を必死で避け続けていた。彼は老人へ呼びかけた。


「ヘモドロス殿! クリス様は!?」


「まだ正気を取り戻されておらぬ! ここは二人で食い止めようぞ!」


 老人は両手を巨人にかざし、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。そして、その目をかっと見開いて叫んだ。


「炎の精イーフリートよ、我に力を! フレアー!」


 その言葉と共に、老人の手から巨大な火の玉が飛び出した。火の玉は巨人目掛けて飛び掛り、巨人の頭は炎に包まれた。だが、その炎は巨人の皮を軽く炙っただけにとどまり、巨人は顔の前で左手をぶんぶんと振って、顔にまとわりつく黒煙をはたいた。その様子を見て、老人は驚きを隠せなかった。


「なんと、魔法が効いておらぬ!」


 巨人は老人を睨みつけ、棍棒を振り下ろした。すかさずレグルスが老人を抱きかかえ、その場から逃れた。


「ヘモドロス殿は物影に隠れていてくだされ! じきにクリス様が正気に戻られます!」


 その言葉に従い、老人はあたふたと洞窟の片隅に身を潜めた。レグルスは巨人の顔めがけて矢を放ち、またもその注意を自身に向け始めた。


 美奈は、巨大な火の玉すらものともしない怪物に声を失っていた。しかし、それでもなお巨人と対峙するレグルスを感嘆の思いで見続けていた。


 ――あの外人のひと、あんな怪物と向き合って怖くないのかな……。


 そのとき、ふと美奈の頭にある考えが浮かんだ。それは、彼女にとってはまさに名案と呼べるものだった。


 ――そうだ、あのレグルスとかいう人にこの剣を使ってもらおう! それしかない!


 そして、美奈は傍らに置かれた剣を手に取った。だが、それはずしりと重く、片手では持ち上がらなかった。そこで美奈は柄を両手で持ち、そのまま巨人とレグルスの元へ駆け出した。


 その様子を見ていた老人が、目に涙を浮かべて歓喜の叫びをあげた。


「おお、見よ、レグルスよ! クリス様が剣を手に取られた! クリス様が元に戻られたぞ!」


 それを聞いて、レグルスも美奈の姿を見た。そこには、聖剣を手に雄雄しくこちらへ駆けてくる騎士の姿があった。


「おお! 待ちわびましたぞ、クリス様!!」


 だが、美奈の向かう先は、巨人ではなくレグルスであった。そんなことも露知らず、二人は歓喜に沸いた。美奈は、巨人から可能な限り距離をとりつつ、必死の思いでレグルスの元へ走った。


 ――お願い、どうか、この剣を受け取って……!!


 しかし、その思いを打ち消すように、老人の指示が飛んだ。


「レグルス! お前はクリス様と共にやつを挟み撃ちにするのだ!!」


「うむ、それは良い作戦であります!」


 その指示に従い、レグルスは美奈と自分の間に常に巨人が来るように動いた。美奈から見ると、どれだけ彼女が動いても彼の姿は巨人の向こう側にあることになる。いつしか、美奈とレグルスは巨人を中心にした円のちょうど反対側に位置するようになった。


 ――ちょ、ちょっと!? 何故かあの男の人があたしを避けるように動いてるっぽいんだけど!


 美奈は思わぬ展開にうろたえた。

 一方、巨人は美奈とレグルスが自分の周囲をぐるぐると回りだしたことに戸惑い、どちらを標的にするべきか決めかねている様子だった。それに気付いた美奈は、その足を止めて一考した。


 ――あの男の人、ずっとあの巨人の後ろに隠れてるなあ……まいったなあ……。でも、さっきからあの巨人、一度もあの棍棒を振り回してない気がするな……、なんかずっとおろおろして、あまり動きも素早そうじゃないし……。


そこで、美奈は意を決した。


 ――こうなったら仕方ない……。怖いけど、あの怪物の足元をすり抜けて一直線にあの男の人に剣を手渡そう! そしたら、あたしはヘモドンスと一緒に隠れて、あの人がこの剣で怪物をやっつける! それで万事解決! よーし!!


 美奈は巨人の視線がレグルスに向いた瞬間を見計らい、思い切って前へ走り出した。巨人は美奈の動きに気付いておらず、美奈は祈る思いで一気にその足元に駆け寄った。


 ――ここさえ抜ければ、あの人のところに辿り着く! こっちに気付かないでよ、怪物ー!!


 しかし、その瞬間、それを見ていた老人がまたも歓喜の叫びをあげた。


「おお! クリス様が一瞬にしてやつの間合いに!!」


 その声に気付き、巨人が美奈の方を振り向いた。美奈と巨人の目が合い、美奈の身体が固まった。突然足元に現れた美奈に驚いて、巨人は小さく低い雄叫びをあげた。美奈の額から冷や汗が流れた。


 ――え? 嘘!? ちょ、あたし、あんたと戦う気とか無いってば! ヘモロドス、余計なこと言わないでよー!!


 巨人が棍棒を振り下ろした。美奈は慌ててそれをかわした。先ほどまで美奈が立っていた地面の岩が、音を立てて砕け散った。それを見て、美奈は思わず悲鳴をあげた。


「ひやーーーーー!!」


 なんとも情けない声をあげながら、美奈は巨人の足元から離れようとした。しかし、巨人はそうはさせじと続けざまに棍棒を繰り出した。美奈はそれもすんでのところでかわした。棍棒が地面に当たる度に激しい音と振動が感じられ、美奈は恐怖に震えて声も出せなくなった。


 その後もさらに巨人の攻撃は続いた。しかし、巨人の攻撃は一度も美奈に当たらなかった。何故か彼女には巨人が棍棒を振り下ろす動作が手に取るように分かり、それをかわすための動きも即座に判断できた。その身体の真の持ち主――クリスティーナの身体能力と戦闘経験がそれを可能にしていたのだが、美奈はそんなことなど知る由もなかった。


「なんと、クリス様はやつの攻撃を完璧に見切っておる!」


 老人が感嘆の声をあげた。


「しかし、避けているだけでは勝機がありませぬ! 見れば、剣を構えることもままならぬご様子! ヘモドロス殿、助太刀をするべきでは!?」


「いや、それならば助けを呼ばれるはず! きっと何か考えがあってのことなのだ!」


 心配するレグルスを諭すように老人が言った。二人は固唾を飲んで美奈の様子を見守った。


 一方、美奈は巨人の棍棒をただひたすらかわし続けていた。両手に剣を持ってはいたが、それはあくまでもレグルスに手渡すためのものと考えていたので、それで斬りかかることなど思いもしていなかった。巨人は何度も棍棒を振り下ろすも、全く当たらない状況に次第に焦れてきているようで、段々とその腕に力が入ってきているようだった。


 ――な、何であたしが狙われてるのーーー!? 誰か助けてーーー!!!


 泣きそうな表情で、美奈は攻撃を避け続けた。そして巨人の攻撃がいよいよ大振りになり、棍棒を振り下ろした際の地面の砕け方が激しくなってきた。激しい振動と共に砕け散った岩の破片が顔に当たり、美奈はいよいよ心底震え上がった。

 そして、いつしか美奈は洞窟の壁際へと追いやられていたことに気付いた。


 ――あれ、もう逃げ場がない! どうしよう……!


 美奈を追い詰めた巨人はぜえぜえと息を上げながらも、にやりと口元に笑みを浮かべた。そして、両手で棍棒を持ち、思い切りそれを振り上げた。

 それを見たレグルスが、慌てて弓を構えた。


「いかん、ヘモドロス殿! クリス様が!!」


 その時、老人は地面から伝わる音と振動に気が付いた。そして、天井を見上げてある事実に気が付いた。


「いや、待てレグルス! これは……!」


 巨人が力の限り棍棒を振り下ろそうとした瞬間、その足元でひときわ大きな地鳴りが響いた。

 地鳴りは徐々に周囲へ広がり、そして、天井からは、ごおん、と一段大きな音が響き渡った。巨人はその音に驚き、棍棒を振り下ろす手を止めて辺りを不安げに見渡した。

 美奈はそれを見て、慌てて巨人の足元から逃げ出した。地鳴りはどんどん大きくなり、いつしか天井からは砂がぱらぱらと落ち始めていた。


「うお!? これはいかん! 落盤が起こるぞ!」


 老人が叫び声をあげた。老人とレグルスは洞窟の出口へ向かって走り出した。


「クリス様! 天井が落ちます! 早くお逃げを!!」


 それを聞いて、美奈も二人の後を追って走った。

 その時、不意に天井が崩れた。美奈のすぐ背後に巨大な岩が落ち、土埃が舞った。


「きゃーーーーー!?!?」


 美奈は突然のことに悲鳴をあげ、必死で走った。地鳴りはなおも止むことなく、背後に響く音で美奈はそこに次々と巨大な岩石が落ちていることを悟った。いつしか視界は土煙で遮られて二人の背中は見えなくなったが、それでも老人が呼ぶ声を頼りに美奈は全速力で洞窟を駆け抜けた。そして、背後からはひときわ大きな岩石の落下音と共に、怪物の断末魔が響いた――



* * *


 ――美奈は悲鳴と共に椅子から転げ落ちた。


 ノートと教科書が机の上からばさばさと落ち、筆箱の中身が床に散らばった。

 周りを見ると、クラスメイトが驚いた表情でこちらを見ていた。一瞬、呆然とした美奈だったがすぐに状況を理解し、あせあせと散らばったペンをかき集めた。


「どうした、来栖。怖い夢でも見たか?」 


 古文の教師が意地悪く言った。教室の中が笑い声で包まれた。


「す、すいません……」


 美奈は冷や汗をかきながら、拾い上げた教科書を机の上に置き、ぱらぱらとページをめくった。


「じゃあ、来栖、眠気覚ましだ。このページの三行目から読んでみろ」


 教師が笑みを浮かべて美奈を指差した。



* * *


 ――"オーガの巣"と呼ばれる巨大な鍾乳洞の中。その洞窟の主は、突然落ちてきた巨大な岩に押しつぶされてその身体を横たえていた。瓦礫の隙間から垣間見えるその手足はぴくりとも動かず、まだ天井からわずかに落ちてくる小石が、からからと音を立ててその瓦礫の山を降っていった。


「これを、本当に私が……?」


 カンパレア王国の筆頭騎士クリスティーナは瓦礫の山とそこに埋もれたオーガの死体を見て、驚きを隠せない表情で呟いた。ヘモドロスが傍らに膝をついて答えた。


「左様でございます。実に勇敢な戦いぶり……! そしてあの醜いオーガの攻撃を誘い、洞窟の落盤に巻き込むという見事な作戦……このヘモドロス、実に感服いたしましたぞ!」


 それを聞き、クリスティーナは頭を抱えてうつむいた。


「すまぬ。まったく記憶に無いのだ……」


「なんと……!?」


 ヘモドロスは耳を疑った。クリスティーナは唇を噛み、そして続けた。


「無我夢中だったのかもしれん……だが、常に力任せで戦ってきた私に、このような芸当ができたろうか……? どうも、これは私一人の力で勝ち取ったものではないような気がするのだ……」


 勇敢にオーガに立ち向かっていく彼女の姿を見ていたヘモドロスとレグルスは、信じられない、といった表情で顔を見合わせた。しかしすぐに二人は、これは彼女なりの謙遜に違いないと考え、その奥ゆかしさに改めて尊敬の念を抱いた。

 そこで、感嘆の表情で彼女の横顔を見ていたヘモドロスは、ふと違和感を感じた。


「おや? クリス様、右耳のイヤリングはどうされましたかな?」


「……ん?」


 クリスティーナは右の耳たぶをそっと触った。そこにあったはずの銀のイヤリングが無くなっていた。


「……無いな。戦いの最中で落としたのだろうか。王からの賜り物だったのだが……」


 それを聞いたレグルスが即座に申し出た。


「探してまいりましょう!」


 瓦礫の山へ向かおうとしたレグルスを、クリスティーナは制止した。


 「……よい! 恐らく見つからぬだろう。それに、あれは勝利の女神ウィクトーレアをかたどったものだった。この勝利と引き換えに女神はその姿を現し、そして天へ帰られたのだ。そう信じよう」



 彼女は瓦礫の山を見上げた。そして、遠い目をして言った。


「思えば、この旅は私にとって不可思議なことばかりだった。私には、此度の勝利は神の手によって導かれたものだったとしか思えてならぬのだ……」


 ヘモドロスが口を開いた。


「では、帰られてから王に女神への感謝の祭壇を造るよう進言してはいかがでしょうか?」


 その案に、クリスティーナは力強く頷いた。


「名案だ。ヘモドロス。道中手に入れた妖精の道具もそこに奉ることとしよう」




* * *


 「――しやせまし、えーと、せずや、あらましー」


 たどたどしい口調で古文の教科書の例文を読み上げる美奈。

 翼の生えた女神をかたどった銀色のイヤリングが、彼女の右耳でゆっくりと揺れていた。

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居眠り剣士は女子高生 阿山ナガレ @ayama70

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